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[連載] 英語の中のラテン語源単語

法律ラテン語学習の必要性

日本企業の海外展開の拡大に伴い、諸外国の法律を掌握し、また外国語による契約を作成するという業務は、日増しに増加しています。特に英米法を正しく理解し、英文契約に精通することは、きわめて多くの法律家にとって重要な課題となっています。

ところが、英語はゲルマン語族の一種ですが、その歴史においてラテン語及びギリシャ語等の大量の流入があり、言語学的にはヨーロッパ文明の集大成とでもいうべきものになっています。従って、他の分野と同様に法律の分野においても、ラテン語は重要な地位を占めており、これを正しく理解することが要求されています。たとえば、英文契約及び法律等によく登場するラテン語表現の一部を取り上げると次のようなものがあります。
(1) ab initio
(2) ad hoc
(3) bona fide, mala fide
(4) boni mores
(5) consensu contractus
(6) culpa concurrens
(7) de facto, de jure
(8) de lege ferenda
(9) de lege lata
(10) ejusdem generis
(11) essentialia negotii
(12) ex officio
(13) ex parte
(14) fictio juris
(15) habeas corpus
(16) inter alia
(17) ipso facto, ipso jure
(18) mutatis mutandis
(19) pari passu
(20) per annum, per diem
(21) per se
(22) pro rata
(23) sua sponte
(24) quid pro quo
(25) vice versa
これらの表現については、文法構造を的確に掌握し、正しく理解する必要がありますので、適宜本文で言及する予定です。

ラテン語源英単語の習得

ラテン語源英単語は、英単語の50パーセントを超えるといわれています。従って、大量のラテン語源英単語を習得する上で、ラテン語源にまでさかのぼる方法はきわめて有益な方法です。
たとえば、ラテン語動詞agere(to drive, 駆り立てる等)の現在能動分詞(英語の現在分詞)はagens, agentis, agentumと変化しますが、この中のagentの部分が英語に入りagent(代理人等)となっています。次にagereの完了受動分詞(英語の過去分詞)はactus(男性単数主格)であり、これからは女性名詞actio(actionis, actionemと変化します)が生じ、英語のactionが生まれています。更にactusからは形容詞activusが派生し、これからは英単語active及びactivityが発生しています。そして、agereから派生した反復動詞agitareからは、英単語agitate, agitation及びagitatorが出現しています。

このようにラテン語文法の初歩を勉強し、羅和辞典や英語の語源解説書を活用すれば、効率よく英単語を習得することができると思われます。しばらく前までは日本人は中学に入ってから英語の勉強を開始しましたが、当事務所の所内ラテン語研究会のいずれのメンバーも「中学又は高校の時代にラテン語と出会いたかった。そうすれば、英単語の習得はもっと容易であったろうし、また楽しかったであろう」と述べています。そして、中高生時代に疑問として浮んだもののいくつかは、次のようなものです。
(1) なぜ英語の動詞には、-ate, -en, -fy, -ify, -ishや-ize等の接尾辞(suffix)を伴うものが多いのか?これらの接尾辞は、何に由来するのか?
(2) なぜ英語では、-tionという接尾辞を有する抽象名詞が目立つのか?この 接尾辞は、いずれから発生し、どのようにして形成されたのか?
(3) -able(-ible), -al, -ant, -ent, -ic, -ish及び-ive等の接尾辞で終わる形容 詞が多いのは、なぜなのか?
(4) sufficeという動詞に対応する形容詞は、なぜsufficientという形式をと るのか?また動詞satisfyに対応する名詞は、なぜsatisfactionとなるの か?
(5) 英語には、いくつの接頭辞(prefix)があるのか?これらはいずれから 生じたのか?またde, di, disやper, pre, proは似ていてまぎらわしいが、 それぞれがどのような関連を有するのか?
(6) 動詞constructは「建設する」を意味するのに、名詞constructionには なぜ「解釈」という意味があるのか?また動詞convinceは動詞convict と形式が似ているが、双方はどのような関係を有するのか?名詞 convictionは、2つの動詞に相応する意義を有しているが、これはなぜ なのか?
以上の疑問をラテン語学習によりすべて解決することはできませんが、多くの疑問は、ラテン語と密接に関係しています。従って、この「英語の中のラテン語源単語」というサイトにおいては、英語を学習しておられる中学生以上の方々のために必要かつ有益な情報を提供する予定です。

印欧祖語への道

世界には数え切れないほどの言語が存在するようですが、その中でも有力な語族はインド・ヨーロッパ語族と呼ばれており、ラテン語、ギリシャ語、サンスクリット語、ゲルマン語及びスラブ語等が含まれています。

長い歴史を有する言語学の研究によれば、この語族はProto-Indo-European(印欧祖語)から派生したといわれており、それに含まれる言葉の語幹(stem)、即ちIndo-European Root(印欧語根又は印欧基語)は2000以上が想定され、欧米ではこれらを収録した辞書も発行されています。
英語及びラテン語を学んで興味をかきたてられたならば、一歩進んでギリシャ語及びサンスクリット語にアクセスし、更には印欧祖語に至る道を歩まれるよう願うものです。

その他

ラテン語にはきわめて多くの格言があり、格言集も発行されています。これらの格言を導入部分とし、また過去には東アジアにおいてラテン語的地位を占めていた漢語による訳文を必要に応じて添付してこのシリーズを継続したいと願っております。法律に関する格言も少しずつ紹介していく予定です。
なお、このシリーズは英単語を効率的に習得することを目的としていますので、最初の段階ではラテン単語の格変化等にとらわれないで、英単語とラテン単語との類似性に着目して進まれるようおすすめします。

参考文献

次の基本参考文献を活用されれば、きわめて役に立つと思われます。

(1) 羅和辞典(改訂版)水谷智洋編 研究社 2009年
(2) ラテン語初歩(改訂版)田中利之著 岩波書店 2002年
(3) ギリシア・ラテン引用語辞典(新増補版)田中秀央・落合太郎編著 岩波書店 1963年
なお、本シリーズを継続していく中で引用し、又は参考とする文献は、次のとおりです。
(1) 英語の語源事典 梅田修著 大修館書店 1990年
(2) 法律英語の基礎知識(増補版)早川武夫・椙山敬士著 商事法務 2005年
(3) 語源中心英単語辞典(改装版)田代正雄著 南雲堂 2005年
(4) 語根中心英単語辞典 瀬谷廣一著 大修館書店 2000年
(5) Cassel’s Latin Dictionary D.P. Simpson Macmillan Publishing Company 1959年
(6) The American Heritage Dictionary of Indo-European Roots Revised and edited by Calvert Watkins Houghton Mifflin Company 1985年

ラテン語研究会主要メンバー

会 長  : 瓜生 健太郎
副会長  : 宍戸 一樹 穴田 功 広瀬 元康
顧 問  : 糸賀 了 早川 吉尚
事務局長 : 大牟田 啓

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