TOPその他更新情報 外国判例の日本語訳を追加致しました。(韓国:(憲法訴願)慰安婦問題を巡る日韓合意の違憲性を訴えた事件[憲法裁判所2019.12.27.決定])

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外国判例の日本語訳を追加致しました。(韓国:(憲法訴願)慰安婦問題を巡る日韓合意の違憲性を訴えた事件[憲法裁判所2019.12.27.決定])

 

【決定文要旨】

憲法裁判所は、2019年12月27日、裁判官の全員一致意見により、「大韓民国外交部長官と日本国外務大臣が2015年12月28日に共同発表した日本軍慰安婦被害者問題に関する合意」は手続及び形式並びに実質において具体的な権利義務の創設が認められず、これを通じて日本軍「慰安婦」被害者らの権利が処分され、又は大韓民国政府の外交的保護権限が消滅したとはいえないため、憲法訴願審判請求の対象にならないとして、本件審判請求以後に死亡した請求人らを除く請求人らの審判請求を却下した。[却下]
本件審判請求以後に死亡した請求人らに対する審判手続は、各請求人らの死亡により終了した。[審判手続終了]

事件の概要
・請求人らは日帝(訳注:統治時代の日本)により強制的に動員されて性的虐待を受け、「慰安婦」としての生活を強いられた日本軍「慰安婦」被害者、生存した日本軍「慰安婦」被害者の子女又は死亡した日本軍「慰安婦」被害者の子女である。
・請求人らは、2015年12月28日、韓日外交長官会談の共同記者会見を通じて発表された合意の内容が請求人らの人間としての尊厳や価値等を侵害すると主張し、2016年3月27日、上記の合意発表の違憲確認を求める本件憲法訴願審判を請求した。

審判対象
・本件審判対象は、「大韓民国外交部長官と日本国(以下「日本」という)外務大臣が2015年12月28日に共同発表した慰安婦被害者問題に関する合意内容」(以下「本件合意」という)が請求人らの基本権を侵害するか否かである。

決定主文
1. 請求人26名の本件審判請求を全て却下する。
2. 残りの請求人らに対する審判手続は[別紙3]記載の通り終了した。

理由の要旨
条約と非拘束的合意の区分
・条約と非拘束的合意を区分するにあたっては、合意の名称、合意が書面によりなされたか否か、国内法上求められる手続を経たか否かといった形式的な側面以外にも、合意の過程及び内容・表現に照らし法的拘束力を付与しようとする当事者の意図が認められるか否か、法的効果を付与しうる具体的な権利・義務を創設するか否かなど実体的側面を総合的に考慮しなければならない。非拘束的合意の場合、それにより国民の法的地位が影響を受けるものではないといえるため、これを対象とした憲法訴願審判請求は認められない。

本件合意が憲法訴願審判の対象になるか否か(消極)
・一般的な条約が書面の形式により締結されるのとは異なり、本件合意は口頭形式の合意であり、表題に大韓民国は「記者会見」、日本は「記者発表」という用語を用いて一般的な条約の表題とは異なる名称を付し、口頭発表の表現とホームページに掲載された発表文の表現さえも一致しない部分が存在した。また、本件合意は国務会議の審議や国会の同意等の憲法上の条約締結手続を経ていない。
・本件合意の内容上、韓日両国の具体的な権利・義務を創設するか否かは不明確である。本件合意のうち、日本の総理大臣が日本軍「慰安婦」被害者に対する謝罪と反省の気持ちを表する部分の場合、日本軍「慰安婦」被害者の権利救済を目的とするか否かが示されていないため、法的意味を確定するのは困難であり、日本軍「慰安婦」被害者の被害回復のための法的措置に該当するとはいい難い。日本軍「慰安婦」被害者支援のための財団設立及び日本政府の出捐に関する部分は、「講じる」、「行うものとする」、「協力する」といった表現に示されるように、具体的な計画や義務履行の時期・方法、不履行の責任が定められていない抽象的・宣言的な内容であり、「すべきである」という法的義務を指示する表現が一切使用されていない。駐韓日本大使館前の少女像に関する大韓民国政府の見解表明部分も、「日本政府の懸念を認知し、関連団体との協議等を通じて適切に解決されるよう努力する」と言及したに過ぎず、「適切な解決」の意味や方法を規定しておらず、解決時期及び未履行に伴う責任も定めていないため、両国の権利・義務を具体化していると窺える内容はない。そのほか、日本軍「慰安婦」被害者問題の「最終的・不可逆的な解決」、「国際社会における非難・批判の自制」に関する韓日両国の言及は、根本的に日本軍「慰安婦」被害者問題が果たして何なのかに対する共通の認識が存在していないという点などにおいて韓日両国の法的関係の創設に関する意図が明白に存在していたとは考え難い。
・これを総合すると、本件合意の手続及び形式において、又は実質においても、具体的な権利・義務の創設が認められず、本件合意を通じて日本軍「慰安婦」被害者らの権利が処分され、又は大韓民国政府の外交的保護権限が消滅したといえない以上、本件合意が日本軍「慰安婦」被害者らの法的地位に影響を及ぼすとはいえないため、日本軍「慰安婦」被害者らの賠償請求権等の基本権を侵害する可能性があるといい難い。したがって、本件合意を対象とした憲法訴願審判請求は認められない。

訴訟手続終了宣言
・一部の請求人らは本件審判請求以後に死亡し、その相続人らは審判手続の受継申請を行わなかったため、死亡した請求人らに対する審判手続は各請求人らの死亡により終了した。

2016憲マ253[日本軍慰安婦問題合意発表の違憲確認] [憲法裁判所判例]