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2015年10月23日付大統領令によるインド調停仲裁法の改正について(アジア経済法令ニュース15-45)

2015年10月23日付大統領令によるインド調停仲裁法の改正について
文責 弁護士 奥野剛史

インドにおいては、インド国外における国際仲裁の判断(以下「国際仲裁判断」という。)に対するインド調停仲裁法(以下「法」という。)第9条の規定する暫定措置及び法第34 条が規定する仲裁判断の取消しの適用の有無に関して議論があったが、2015年10月23日付の大統領令(以下「本大統領令」という。)において立法的解決が試みられた。
その結果、インドにおける紛争の解決手段としての国際仲裁の利便性は大きく向上したと言える。
もっとも、安定的にそのような状態が続くかは不透明な状況であり、今後も事態の
推移を注視する必要がある。
以下では、国際仲裁判断に関する法第9 条及び法第34 条の適用に関する判例の変
遷とともに、本大統領令の意義及び課題について概説する。

  1.  2012年9月6日前の状況
    Bhatia International 対Bulk Trading事件(2002年3月13日判決)やVenture Global Engineering対Satyam Computer Services事件(2008年1月10日判決)において、仲裁判断の取り消しを定める法第34条は、国際仲裁判断に対しても適用されると判断された。すなわち、インド国内の法律によって国際仲裁判断を取り消すことが可能としたのである。
  2.  2012年9月6日から2015年10月23日前の状況
    その後、Bharat Aluminium 対Kaiser Aluminium Technical Service 事件(2012年9月6日判決)において、最高裁判所はそれ以前の立場を変更し、国際仲裁判断について法第34条が定める仲裁判断の取り消しの適用を排除した。
    その論法は、インド仲裁調停法の第1章の規定は国際仲裁判断には適用されないというものであったため、やはり第1章に位置する法第9条も国際仲裁判断には適用されなくなるという帰結になった。
    しかし、法第9条は仮差止や財産の保全措置を含む暫定措置を定める条文であり、仲裁判断の実効性を確保する上で重要であるため、上記の帰結はインドにおける国際仲裁判断の実効性を大きく損ねる可能性があり、Bharat Aluminium 対Kaiser Aluminium Technical Service 事件判決はその点に課題を残すものと言わざるを得なかった。
  3.  2015年10月23日以降の状況(本大統領令の意義)
    2015年10月23日に本大統領令が発布され、発効した。
    その主な内容は国際仲裁判断についても法第9条が定める暫定措置を適用するというものであり、Bharat Aluminium 対Kaiser Aluminium Technical Service 事件判決の課題を立法的に解決する意義を有する。
  4.  今後の課題
    このように、インドにおいては、Bharat Aluminium 対Kaiser Aluminium Technical Service事件判決によって国際仲裁判断に対する法第34条の規定の適用が排除され、インド国内法の規定により国際仲裁判断が覆されることがなくなり、また、本大統領令を以て、国際仲裁判断についても法第9条の規定が適用され、暫定措置が認められることとなり、インドにおける紛争解決のために国際仲裁を利用することが非常に容易になったと言える。
    もっとも、本大統領令は、飽くまでも国会閉会中の暫定的なものであり、次回の国会で両院の承認を得られない限り、効力を失うこととなる。すなわち、国際仲裁判断については暫定措置が認められない状態に戻る可能性があるのである。
    そして、上院と下院において、いわゆるねじれ現象が生じている現状を踏まえると、上記可能性はそれなりにあると考えておいた方が無難である。
    インドにおける国際仲裁判断の有用性については、まだ今後の事態の推移から目が離せない状況が続くものと言える。
    なお、本大統領令の原文については、弊所ホームページ
    https://uryuitoga.com/uwp/wp-content/uploads/2015/11/7ffd63bcef4f55aab3d8e
    13c1a04bcbd.pdf)を参照されたい。