TOPその他更新情報 外国判例の日本語訳を追加致しました。(韓国:(憲法訴願)良心的兵役拒否者の代替服務制を定めていない兵役法の違憲性を訴えた事件[憲法裁判所2018.6.28.決定])

その他更新情報

外国判例の日本語訳を追加致しました。(韓国:(憲法訴願)良心的兵役拒否者の代替服務制を定めていない兵役法の違憲性を訴えた事件[憲法裁判所2018.6.28.決定])

【判示事項】

ア.兵役の種類を規定した、2006年3月24日の法律第7897号による改正前の旧兵役法から現行兵役法までの兵役法第5条第1項(以下、総称して「兵役の種類の条項」という。)が良心的兵役拒否者に対する代替服務制を規定していないことを理由に、その違憲確認を求める憲法訴願審判請求が真正立法不作為について争う請求であるか否か(消極)
イ.兵役の種類の条項が違憲であるか否かが良心的兵役拒否者に対する刑事裁判の前提となるか否か(積極)
ウ.兵役の種類を現役、予備役、補充役、兵役準備役、戦時勤労役の5つに限定して規定し、良心的兵役拒否者に対する代替服務制を規定していない兵役の種類の条項が過剰禁止原則に違反し、良心的兵役拒否者の良心の自由を侵害しているか否か(積極)
エ.現役入営又は召集通知書を受領した者が正当な事由なく入営日や召集日から3日が過ぎても入営せず、又は召集に応じなかった場合を処罰する、2009年6月9日の法律第9754号による改正前の旧兵役法から現行兵役法までの兵役法第88条第1項本文第1号、2009年6月9日の法律第9754号による改正前の旧兵役法及び2013年6月4日の法律第11849号による改正前の旧兵役法のそれぞれ第88条第1項本文第2号(以下、総称して「処罰条項」という。)が過剰禁止原則に違反し、良心的兵役拒否者の良心の自由を侵害しているか否か(消極)
オ.兵役の種類の条項に対し憲法不合致の決定を下すものの、引き続き適用を命じた事例

【決定要旨】

ア.非軍事的性格を有する服務も立法者の形成によって兵役義務の内容に含まれることがあり、代替服務制は、その概念上、兵役の種類の条項と密接な関係がある。したがって、兵役の種類の条項に対する本件審判請求は、立法者が何らの立法もしていない真性立法不作為について争うものではなく、立法者が兵役の種類に関して立法はしたものの、その内容が良心的兵役拒否者のための代替服務制を含まず、不完全かつ不十分であるという不真正立法不作為について争うものと考えるのが相当である。
イ.兵役の種類の条項が代替服務制を含んでいないという理由で違憲とされるならば、良心的兵役拒否者が現役入営又は召集通知書を受領した後3日以内に入営せず、又は召集に応じないとしても、代替服務の機会が与えられない限り、当該刑事事件を担当する法院が無罪を言い渡す可能性があるため、兵役の種類の条項は裁判の前提性が認められる。
ウ.兵役の種類の条項は、兵役負担の衡平を図り兵役資源を効果的に確保し、効率的に配分することによって国家安保を実現しようとするものであるため、正当な立法目的を達成するための適切な手段である。
兵役の種類の条項が規定している兵役は、いずれも軍事訓練を受けることを前提としているため、良心的兵役拒否者に当該兵役を課した場合、彼らの良心との衝突を引き起こすことになるが、この代案として代替服務制が議論されてきた。良心的兵役拒否者の数は、兵役資源の減少を論じる程度のものではなく、彼らを処罰するとしても、刑務所に収監することができるに過ぎず、兵役資源として活用することはできないため、代替服務制を導入するとしても、わが国の国防力を左右するような水準の影響を及ぼすとは考え難い。国家が管理する客観的かつ公正な事前審査手続と厳格な事後管理手続を備え、現役服務と代替服務との間に服務の難易度や期間について衡平性を確保し、現役服務を避ける要因を排除すれば、審査の困難性と良心にかこつけた兵役忌避者の増加という問題を解決することができるため、代替服務制を導入しつつも兵役義務の衡平を保つことは、十分に可能である。したがって、代替服務制という代案があるにもかかわらず、軍事訓練を伴う兵役義務のみを規定した兵役の種類の条項は、侵害の最小性原則に反する。
兵役の種類の条項が追求する「国家安保」及び「兵役義務の公平な負担」という公益は、非常に重要であるが、前記のとおり、兵役の種類の条項に代替服務条項を導入するとしても、上記公益は十分に達成しうるものと判断される。一方、兵役の種類の条項が代替服務制について規定していないことにより、良心的兵役拒否者らは、最低1年6か月以上の懲役刑とそれに伴う莫大な有・無形の不利益を甘受しなければならない。良心的兵役拒否者らを公益関連業務に従事させるならば、彼らを処罰して刑務所に収容するよりも広義の安保と公益の実現によって有益な効果を得られるものといえる。したがって、兵役の種類の条項は法益の均衡性要件を満たしていない。
だとすれば、良心的兵役拒否者に対する代替服務制について規定していない兵役の種類の条項は、過剰禁止原則に違背し、良心的兵役拒否者の良心の自由を侵害する。
憲法裁判所は、2004年に、立法者に対し国家安保という公益の実現を確保しつつも、兵役拒否者の良心を保護することのできる代案がないかを検討するよう勧告したが、それから14年が過ぎてもこれに関する立法的進展がみられなかった。その間、様々な国家機関において代替服務制の導入を検討し、又はその導入を勧告し、法院においても良心的兵役拒否に対し無罪判決を言い渡す事例が増えている。このような事情に鑑みれば、国家は、この問題の解決をこれ以上先延ばしすることはできず、代替服務制を導入することによって基本権の侵害という状況を除去する義務を有する。
エ.新旧兵役法の各該当条項が違憲であるか否かについては、裁判官9名のうち、合憲とする意見を述べたのは4名、一部違憲とする意見を述べたのは4名、却下すべきとする意見を述べたのは1名であった。したがって、違憲決定に必要な6名の賛成を得られず、合憲とされた。
オ.兵役の種類の条項について単純な違憲決定を下した場合、兵役の種類と各兵役の具体的な範囲に関する根拠規定がなくなり、一切の兵役義務を課すことができなくなるため、認容し難い法的空白が生じることになる。さらに、立法者は、代替服務制を形成するにあたり、その申請手続、審査主体及び審査方法、服務分野、服務期間等をどのように設定するか等に関して広範囲な立法裁量を有する。したがって、兵役の種類の条項に対し憲法不合致の決定を言い渡すものの、立法者の改善立法がなされるまで引き続き適用を命じるものとする。立法者は、遅くとも2019年12月31日までには代替服務制を導入する内容の改善立法を履行しなければならず、それまでに改善立法がなされない場合、兵役の種類の条項は2020年1月1日から効力を失う。
裁判官9名のうち、兵役の種類の条項に対する反対意見を述べたのは3名(うち2名は、それぞれ兵役の種類の条項の反対意見に対する補充意見、兵役の種類の条項の反対意見及び処罰条項の合憲違憲に対する補充意見も述べている。)、兵役の種類の条項に関する法廷意見に対する補充意見を述べたのは6名であった。

2011憲バ379等[兵役法第88条第1項等の違憲訴願等] [憲法裁判所判例]

-憲法訴願とは?-
韓国では、通常の裁判所とは別に憲法裁判所を置いている。憲法裁判所で扱う手続の種類は、弾劾や政党の解散等のほかに、①違憲法律審判と②憲法訴願審判がある。
①は、係属中の事件の当事者又は裁判所が、当該裁判に適用する法律に違憲の疑いがある場合に、憲法裁判所に違憲か否かの審判を求める(裁判所から憲法裁判所に請求し、この間裁判は中断)。
②は、自然人又は法人が、公権力の行使又は不行使により基本的権利などが侵害された場合に、直接憲法裁判所に救済を訴願する(他の救済手段を経ていることが条件で、代理人の選任は必須)。
なお、違憲か否かの決定は複数人の裁判官による票決でなされ、控訴や再審は認められない(三審制ではない)。