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外国判例の日本語訳を追加致しました。(韓国:(民事)タクシー運転勤労者の所定勤労時間を短縮する合意が無効とされた事件[大法院2019.4.18.宣告全員合議体判決])

2019.07.03

【判示事項】

2008年3月21日に法律第8964号により改正された最低賃金法第6条第5項の施行に伴い、定額社納金制の下で生産高に応じた賃金を除いた固定給が最低賃金に達しないことを回避する意図で、使用者が所定勤労時間を基準に算定される1時間あたりの固定給の外形上の額を増加させるために、タクシー運転勤労者労働組合との間で実際の勤務形態や運行時間の変更なく所定勤労時間のみを短縮することにした合意の効力(無効)及びこのような法理は、使用者がタクシー運転勤労者の過半数で組織された労働組合又は勤労者の過半数の同意を得て所定勤労時間を短縮する内容で就業規則を変更する場合にも同様に適用されるのか否か(積極)

【判決要旨】

[多数意見]

(ア) 旧勤労基準法(2018年3月20日法律第15513号により改正される前のもの)は、休憩時間を除き、1週間の勤労時間は40時間を、1日の勤労時間は8時間を超過できないように基準勤労時間を定めて規制し(第50条第1項、第2項)、基準勤労時間の範囲内で勤労者と使用者が合意した勤労時間を所定勤労時間と規定している(第2条第1項第7号)。
勤労者は、合意した所定勤労時間中に勤労義務を負い、使用者は勤労義務履行に対し賃金を支払うことになるが、使用者と勤労者は、基準勤労時間を超過しない限り、原則として自由な意思により所定勤労時間に関して合意することができる。ただし、所定勤労時間の定めが専ら形式に過ぎないと評価しうる程度に至り、又は労働関係法令等強行法規を潜脱する意図をもって所定勤労時間を定めたなどの特段の事情がある場合には、所定勤労時間に関する合意としての効力を否定しなければならない。
(イ) 憲法及び最低賃金法関連規定の内容及び体系、2008年3月21日に法律第8964号により改正された最低賃金法第6条第5項(以下「特例条項」という)の立法趣旨及び立法経過、旅客自動車運輸事業法の規定趣旨及び一般タクシー運送事業の公共性、所定勤労時間を短縮する合意に関する前後の事情等を総合的に考慮すると、定額社納金制の下で、生産高に応じた賃金を除いた固定給が最低賃金に達しないことを回避する意図をもって使用者が所定勤労時間を基準に算定される1時間あたりの固定給の外形上の額を増加させるために、タクシー運転勤労者労働組合との間で実際の勤務形態や運行時間の変更なく所定勤労時間のみを短縮することに合意した場合、このような合意は、強行法規である最低賃金法上特例条項等の適用を潜脱するための脱法行為として無効であるというべきである。このような法理は、使用者がタクシー運転勤労者の過半数で組織された労働組合又は勤労者の過半数の同意を得て所定勤労時間を短縮する内容で就業規則を変更する場合にも同様に適用される。

[大法院裁判官チョ・ヒデ、イ・ギテの反対意見]
特例条項は、以下で述べるように、特例条項を除く残りの部分の最低賃金法(以下「既存の最低賃金法」という)と目的、要件、違反の効果の側面において本質的に区分される。そのため、特例条項のこのような特性を全く考慮しないまま一般的な既存の最低賃金法規定の解釈論をそのまま適用することはできず、また、特例条項の文言にのみ過度に集中して特例条項を解釈してはならず、未払賃金の有無のみを中心にして事案を検討することも適正ではない。
特例条項は、タクシー運転勤労者に対する賃金支払方法を具体的に規律している「賃金の質」に関する規定であって、賃金の量に対する規律は全く意図していない。特例条項は、形式的にのみ見れば、既存の最低賃金法の枠内において比較対象賃金の範囲を定める内容であるが、特例条項の目的を実質的に検討すると、既存の最低賃金法規定の全体的な目的とは全く異なる規律内容を包含していることが分かる。したがって、既存の最低賃金法解釈論を特例条項解釈論にそのまま適用することはできない。
使用者がタクシー運転勤労者に対し固定給を引き上げるためには、固定給の実質的な財源となる社納金を増額せざるをえず、このような社納金の増額は超過運送収入金の減額によってなされるほかない。総収入が一定の場合であれば、固定給の増加は超過運送収入金の減少に直結する。両者は一般的に相互反比例の関係にある。さらに、このような相互関係を考慮すれば、固定給と超過運送収入金を分離して別個に法的評価を行うことはできない。結果的に、固定給と超過運送収入金に関する法律関係に対する法的効力が互いに異なることは適正でない。
特例条項は、タクシー運転勤労者に対する賃金支払方法を規律することにより賃金の質を上昇させる目的を帯びているため、特例条項の趣旨に反する場合、使用者の法的責任の様相も同じではない。すなわち、特例条項の趣旨に反して使用者が固定給賃金を少なく支払うことにより、特例条項が達成しようとする直接的な目的であるタクシー運転勤労者の生活安定が侵害された場合であるならば、使用者は、タクシー運転勤労者に生じた損害を賠償するなどの法的責任を負うことになる。
多数意見は、賃金の量についてのみ関心を示し、使用者に最低賃金に達しない金額の賃金支払義務のみ認めれば足りるという立場に立っていると考えられる。しかし、未払賃金支払義務の認定及び法違反又は契約違反による民事上の損害賠償責任の認定は全く別個のものである。賃金の質に焦点を置いて特例条項が保護しようとしたタクシー運転勤労者の安定した生活という法的利益が使用者の特例条項違反又は契約上の義務違反により侵害された場合であるならば、別個の民事責任が認められて然るべきである。

[大法院裁判官キム・ジェヒョンの反対意見]
所定勤労時間とは、勤労者が勤労義務を負うことを約定した勤労時間であると同時に、使用者が賃金を支払うことを約定した勤労時間である。勤労義務と賃金支払義務のない所定勤労時間は無意味である。使用者と勤労者が団体協約や就業規則に所定勤労時間条項を定めることとし、その条項に拘束される意思もなく、規範力も生じないものとしたならば、その条項に基づく勤労義務や賃金支払義務は生じない。したがって、使用者と勤労者が実際の勤務形態や勤労時間を変更しないこととし、団体協約や就業規則において所定勤労時間のみを形式的に短縮しておいた条項は、上記の所定勤労時間の概念等に照らし、特段の事情がない限り無効というべきである。
勤労者の過半数の同意を得て変更した就業規則の所定勤労時間条項が無効となった以上、勤労関係当事者が無効であることを知っていたならば選択していたであろう所定勤労時間を明らかにし、これを基準にして判断しなければならない。有効な固定給の額や社納金の額もまた、このように当事者の仮定的な効果意思を考慮して確定しなければならない。
就業規則上所定勤労時間の短縮経緯、目的と内容、所定勤労時間条項と固定給・社納金条項の関係、所定勤労時間短縮条項の無効事由等に照らすと、変更された就業規則上所定勤労時間条項が無効となる場合、少なくとも、このような所定勤労時間と互いに密接な関係がある変更された就業規則上固定給・社納金条項も併せて無効となり、当事者がこのような無効について知っていたならば変更された就業規則上所定勤労時間と固定給・社納金の金額とは全く異なる内容で就業規則を変更することを選択していたものと考えるのが妥当である。結局、このような仮定的な効果意思に従い認定される所定勤労時間と固定給・社納金の額が新しい就業規則条項として有効であり勤労関係に適用されることとなり、所定勤労時間と固定給・社納金の具体的な金額は当該事業場の勤務形態及び運行時間、年間固定給・社納金の増加率、固定給増額に伴う費用など様々な関連事情を基にして個別的かつ具体的に審理し確定しなければならない。

[大法院裁判官イ・ドンウォンの反対意見]
使用者に特例条項施行と関連して最低賃金法違反を回避するための意図が一部あったとしても、所定勤労時間の短縮が勤労関係当事者らの間の自発的な合意によるものであり、所定勤労時間の短縮後にタクシー運転勤労者の総収益が最低賃金法上賃金額に達しなくなる特別な場合でない以上、就業規則又は団体協約上所定勤労時間の短縮条項が無効であるということはできない。
所定勤労時間の短縮経緯及び勤労関係当事者らの意思、特例条項の立法趣旨及び所定勤労時間の短縮を前後したタクシー運転勤労者の実質的な不利益の有無、タクシー運転勤労に関する所定勤労時間の特殊性、特例条項の規範的限界等を総合的に考慮すると、就業規則又は団体協約上所定勤労時間の短縮条項が脱法行為に該当し、無効と断定することはできない。
所定勤労時間の短縮が勤労関係当事者間の自発的な合意に基づきなされたものであり、所定勤労時間の短縮後にタクシー運転勤労者の総収入が従前の所定勤労時間を基準にしても、最低賃金法上最低賃金水準を上回る場合であるならば、仮に、使用者に特例条項の趣旨を回避しようとする意図が一部あったとしても、これは、特例条項が有する規範的限界により、その適用による勤労関係当事者全てに生じる不利益を回避するために相互合理的な代案を模索したものである。社納金が増額されないことにより総収入が維持されたタクシー運転勤労者に不利にならず、また、所定勤労時間の概念にも反さず、最低賃金法の立法目的にも背馳しないなど私法上効力を否定する程度であるとはいえない。

2016ダ2451全員合議体判決[賃金] [判例公報2019 1074]

この判例の解説コラムについては、こちらからご覧ください。

本件被告は坡州市に所在する一般タクシー運送事業会社(以下「被告」という)であり、原告は被告において勤務するタクシー運転手5名(以下「原告ら」という)である。本件は、原告らが被告を相手に最低賃金法の改正に伴う未払賃金の支払を求めたものである。
韓国において、タクシー運転手の賃金形態は伝統的に社納金制(運送収入金の中から一定額を会社に納付し、その残りを自身の収益にできる制度)が一般的であった。タクシー運転手の生活保障を目的に1997年の旅客自動車運輸事業法全部改正により全額管理制(完全月給制)が導入されたものの、依然として慣習的に社納金制の賃金体系を取っている会社が多いとされている。法改正以降、社納金制や全額管理制を巡るデモや訴訟等が各地で行われ、地域によっては全額管理制に移行されつつある。最近、社納金制を廃止して全額管理制を徹底的に導入する法案が国会にも提出されているが、まだ正式な法改正には至っていない。
本件原告らは、上記のような社納金制の形態で勤務するタクシー運転手であり、運送収入金から社納金を差し引いた額と一定の固定給を毎月の賃金として会社から受け取っていた。しかし、2008年の最低賃金法の改正により、最低賃金に算入される賃金の範囲からこの運送収入金に当たる「生産高に応じた賃金」が除外されることとなった。これに伴い使用者は、最低賃金を満たすために固定給の額を引き上げるなどの措置を余儀なくされた。そこで本件被告は、固定給の額を引き上げることなく就業規則を変更して所定勤労時間を月間209時間から月間115時間に減らすという措置を取った。これに対し本件原告らが、就業規則の変更は改正最低賃金法を回避するための脱法行為であって無効であると主張し、改正後の最低賃金額とそれに満たない部分の金額との差額分の支払を求めたのが今回の事件である。
一審は「変更された就業規則は無効であるとはいえない」との判決を下したが、二審は、一審判決を取り消して原告らの主張を認める判決を下した。大法院は、全員合議体判断により控訴審判決を確定する判断を下した。今回の判断では、争点となった「所定勤労時間を短縮する内容の就業規則条項が有効であるか否か」について、金額が流動的な超過収入金を最低賃金から除外し固定給のみを対象とすることによってタクシー運転手の安定的な生活を保障すること、もし変更された就業規則を有効と認めた場合、今後も最低賃金法を回避するための同様の行為を助長するおそれがあることなどが考慮された。このほかに、タクシー運送事業の公共性に注目し、タクシー運転手の賃金を保障して利便性や安全性を確保することが利用者である国民の生活の質向上、すなわち「公共善」につながるという多数意見に対する補足意見として挙げられた。

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