TOPその他更新情報 外国判例の日本語訳を追加致しました。(韓国:(民事)国際裁判管轄権の判断基準に関する事件[大法院2019.6.13.宣告])

その他更新情報

外国判例の日本語訳を追加致しました。(韓国:(民事)国際裁判管轄権の判断基準に関する事件[大法院2019.6.13.宣告])

【判示事項】

[1] 国際私法第2条第1項で定める「実質的関連」の意味及び判断基準
[2] 民事訴訟法の管轄規定が国際裁判管轄権を判断する上で最も重要な判断基準として作用するか否か(積極)/国際裁判管轄においても被告の住所地が生活関係の中心的場所であって重要な考慮要素であるか否か(積極)
[3] 国際裁判管轄において特別管轄を考慮する理由及び原告が訴えを提起した当時被告の財産が大韓民国にあったが原告の請求と直接的関連がない場合に国際裁判管轄権を判断する方法
[4] 国際裁判管轄において予測可能性を判断する基準及び被告が大韓民国に生活基盤を有しており又は財産を取得して経済活動を行う場合、大韓民国法院に被告を相手に財産に関する訴えを提起するであろうという点に関して予測可能性が認められるか否か(積極)
[5] 国際裁判管轄権は並存しうるか否か(積極)及び地理、言語、通信の便宜面において他の国の裁判所の方が大韓民国法院よりも便利だということのみで大韓民国法院の裁判管轄権を安易に否定できるか否か(消極)
[6] 甲は中国国籍を有し中国で私債業に従事した後大韓民国に営業目的で入国した者であり、乙らは中国国籍の夫婦であって中国で不動産開発事業を営んだ後大韓民国に居住地を備えた者らであるが、甲が過去に中国で乙らに貸した貸与金の返還を求める訴えを大韓民国法院に提起した事案において、諸般事情に照らし上記訴えは大韓民国と実質的関連性があるため、大韓民国法院が国際裁判管轄権を有すると示した原審判断が正当であるとした事例

【判決要旨】

[1] 国際私法第2条第1項は、「法院は、当事者又は紛争となった事案が大韓民国と実質的関連のある場合に国際裁判管轄権を有する。この場合、法院は、実質的関連の有無を判断するにあたり国際裁判管轄配分の理念に合致する合理的な原則に従わなければならない。」と定めている。ここで「実質的関連」とは、大韓民国法院が裁判管轄権を行使することを正当化すべき程度に当事者又は紛争となった事案と関連性があることを意味する。これを判断する際には、当事者の公平、裁判の適正、迅速及び経済など国際裁判管轄配分の理念に合致する合理的な原則に従わなければならない。具体的には、当事者の公平、便宜、予測可能性といった個人的な利益のみならず、裁判の適正、迅速、効率、判決の実効性といった裁判所や国家の利益も併せて考慮しなければならない。このように多様な国際裁判管轄の利益のうちいかなる利益を保護する必要があるのかは、個別事件において実質的関連性の有無を合理的に判断し決定しなければならない。
[2] 国際私法第2条第2項は、「法院は、国内法の管轄規定を参酌して国際裁判管轄権の有無を判断するが、第1項の規定の趣旨に照らし国際裁判管轄の特殊性を十分に考慮しなければならない。」と定め、第1項で定める実質的関連性を判断する具体的基準又は方法により国内法の管轄規定を提示する。したがって、民事訴訟法の管轄規定は国際裁判管轄権を判断する上で最も重要な判断基準として作用する。ただし、このような管轄規定は国内的観点から設けられた裁判籍に関する規定であるため、国際裁判管轄権を判断する際には、国際裁判管轄の特殊性を考慮し国際裁判管轄配分の理念に合致するよう修正した上で適用しなければならない場合もある。
民事訴訟法第3条本文は、「人の普通裁判籍は、その住所により定める。」と定めている。したがって、当事者の生活根拠となる所、すなわち、生活関係の中心的場所が土地管轄権の最も一般的・普遍的発生根拠であるといえる。民事訴訟法第2条は、「訴えは、被告の普通裁判籍がある所の法院が管轄する。」と定めているが、原告に被告の住所地の裁判所に訴えを提起させることが管轄配分において当事者の公平に合致するためである。国際裁判管轄においても被告の住所地は生活関係の中心的場所であって重要な考慮要素である。
[3] 国際裁判管轄において特別管轄を考慮するのは、紛争となった事案と実質的関連がある国家の管轄権を認めるためである。民事訴訟法第11条は、「大韓民国に住所を有しない人又は住所を知りえない人に対し財産権に関する訴えを提起する場合には、請求の目的又は担保の目的や差押えを行うことができる被告の財産がある所の法院に提起することができる。」と定めている。原告が訴えを提起した当時に被告の財産が大韓民国にあった場合、大韓民国法院に被告を相手に訴えを提起し勝訴判決を得たときは、直ちに執行して裁判の実効性を確保することができる。このように、被告の財産が大韓民国にある場合、当事者の権利救済や判決の実効性の側面から大韓民国法院の国際裁判管轄権を認めることができる。しかし、その財産が偶然大韓民国にある場合までも無条件に国際裁判管轄権を認めることは、被告に著しい不利益を生じさせる可能性がある。したがって、原告の請求が被告の財産と直接的な関連のない場合には、その財産が大韓民国に存することになった経緯、財産の価額、原告の権利救済の必要性及び判決の実効性等を考慮して国際裁判管轄権を判断しなければならない。
[4] 予測可能性は、被告と法廷地との間に相当な関連があり、法廷地の裁判所に訴えが提起されることについて合理的に予見することができたか否かを基準に判断しなければならない。被告が大韓民国に生活基盤を有しており、又は財産を取得して経済活動を行う際には、大韓民国法院に被告を相手に財産に関する訴えが提起されるであろうという点を容易に予測することができる。
[5] 国際裁判管轄権は排他的なものではなく、並存することも可能である。地理、言語、通信の便宜面から他の国の裁判所の方が大韓民国法院よりも便利だということのみで大韓民国法院の裁判管轄権を安易に否定することはできない。
[6] 甲は中華人民共和国(以下「中国」という)国籍を有し中国で私債業に従事した後大韓民国に営業目的で入国した者であり、乙らは中国国籍の夫婦であって中国で不動産開発事業を営んだ後大韓民国に居住地を備えた者らであるが、甲が過去に中国で乙らに貸した貸与金の返還を求める訴えを大韓民国法院に提起した事案において、乙らが大韓民国にある不動産及び車を購入して所有・使用し、上記訴えを提起された当時大韓民国に生活の根拠を置いて子を養育する中で取得した不動産に実際に居住してきた事実等と、甲も上記訴えを提起した頃に大韓民国に入国して弁論当時まで相当な期間を大韓民国で居住し、その後大韓民国で営業活動を行う計画を有していた事実等を総合すると、甲と乙らはいずれも上記訴えを提起した当時大韓民国に実質的な生活基盤を形成していたといえる点、乙らは中国を離れた後に大韓民国に生活基盤を備えて財産を取得していたため、甲が自身らを相手に大韓民国法院に上記訴えを提起することを予想できなかったとは考え難く、乙らが大韓民国に不動産及び車等の財産を所有しているため、甲がこの仮差押えを行った状況で請求の実効性ある執行のために大韓民国法院に訴えを提起する実益がある点、中国国籍を有する甲が中国国籍を有する乙らを相手に自ら大韓民国法院で裁判を受けるという意思を明確に表示して裁判を請求し、乙らも大韓民国で訴訟代理人を選任して応訴しており、相当な期間にわたって大韓民国法院において本案に関する実質的な弁論及び審理が行われたが、上記事件の要証事実は、そのほとんどが契約書や口座振替内訳等の書証を通じた証明が可能であり、必ずしも中国現地に対する調査が必要であるとはいえず、大韓民国で訴訟を行うことが乙らに著しく不利であるとはいえない反面、上記事件に関して大韓民国法院の国際裁判管轄を否認し中国の裁判所で再度審理を行うことになれば、訴訟経済に深刻に反する結果がもたらされる点、上記事件に関する法律関係の準拠法が中国法であっても、国際裁判管轄と準拠法は相互に異なる理念により支配されるため、そのような事情のみで上記訴えと大韓民国法院の実質的関連性を否定することはできない点等に照らし、上記訴えは大韓民国と実質的関連性があるため、大韓民国法院が国際裁判管轄権を有すると示した原審判断が正当であるとした事例。

2016ダ33752判決[貸与金] [判例公報2019 1357]