TOPその他更新情報 外国判例の日本語訳を追加致しました。(韓国:(憲法訴願)兵役準備役に編入された多重国籍者の国籍離脱制限に関する事件[憲法裁判所2020.09.24.決定])

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外国判例の日本語訳を追加致しました。(韓国:(憲法訴願)兵役準備役に編入された多重国籍者の国籍離脱制限に関する事件[憲法裁判所2020.09.24.決定])

【決定文要旨】

憲法裁判所は2020年9月24日、裁判官7:2の意見により、多重国籍者が兵役準備役に編入された時から3か月が過ぎた場合、兵役義務解消前は大韓民国国籍から離脱できないよう制限する国籍法第12条第2項本文及び第14条第1項但書きのうち、第12条第2項本文に関する部分が憲法に合致せず、これらの法律条項は2022年9月30日を時限として改正されるまで引き続き適用するという決定を言い渡した。[憲法不合致]
(国籍法施行規則に関する判示部分(請求棄却)は省略)

事件の概要
・請求人は、1999年に米国国籍の父と大韓民国国籍の母との間に出生し、米国と大韓民国の国籍をいずれも保有する多重国籍者である。
・国籍法第12条第2項本文及び第14条第1項但書きにより、請求人は、兵役法上満18歳となる2017年1月1日から3か月以内である2017年3月31日までに複数国籍のうちいずれかの国籍を選択する義務があり、この期間が過ぎると、兵役義務が解消されるまでは大韓民国国籍の離脱届出を行うことができない。
・国籍法施行規則第12条第2項第1号及び実務によれば、国籍離脱届出書に基本証明書及び家族関係証明書、父及び母の基本証明書等を添付しなければならないが、これらの書類は家族関係登録簿が作成された者が発給を受けることができる。請求人の場合、出生と同時に大韓民国国籍を取得したが、大韓民国に出生届出すらなされていないため、これらの書類を添付するには出生届出から行わなければならない。
・請求人は大韓民国国籍から離脱しようとしているが、上記施行規則条項により国籍離脱届出を行うためには、まず出生届出をしなければならず、上記法律条項により2017年3月31日が過ぎると、兵役義務が解消されない以上国籍離脱が制限されるところ、これらの規定が自身の基本権を侵害すると主張し2016年10月13日に本件憲法訴願審判を請求した。

審判対象
・国籍法(2016年5月29日法律第14183号により改正されたもの)第12条第2項本文、国籍法(2010年5月4日法律第10275号により改正されたもの)第14条第1項但書きのうち、第12条第2項本文に関する部分(以下、これらの条項を合わせて「審判対象法律条項」という)、国籍法施行規則(2014年6月18日法務部令第817号により改正されたもの)第12条第2項第1号(以下「審判対象施行規則条項」といい、上記審判対象法律条項とこれを合わせて「審判対象条項」という)が請求人の基本権を侵害するか否かが本件審判対象である。

多重国籍者に対する国籍選択期間及び国籍離脱届出の制限
・原則として、多重国籍者は、満20歳以前に多重国籍者となった場合は22歳までに、20歳以降に多重国籍者となった場合はその時から2年以内に1つの国籍を選択しなければならない(国籍法第12条第1項本文)。しかし、兵役法第8条に従い兵役準備役に編入された者の場合、編入された時から3か月以内又は兵役義務が解消された時から2年以内に1つの国籍を選択しなければならない(国籍法第12条第2項本文)。大韓民国国民である男性は18歳から兵役準備役に編入されるところ、満18歳となる年の1月1日以前に大韓民国国籍を取得し、兵役準備役に編入された多重国籍者の場合、その日から3か月後である3月31日を時限として1つの国籍を選択しなければならない(兵役法第2条第2項、第8条参照)。
・多重国籍者は自発的に大韓民国国籍から離脱することができる。大韓民国国籍から離脱する多重国籍者は、その旨を法務部長官に届け出なければならず、国籍離脱届出が受理されると、大韓民国国籍を喪失する(国籍法第14条第1項本文、第2項)。しかし、兵役義務を負う大韓民国の男性は、大韓民国国籍から離脱する旨を上記のとおり国籍を選択できる期間内に届け出ることができ、この期間を経過すると、国籍法第12条第3項各号記載のとおり、兵役義務が解消された場合にのみ届け出ることができる(国籍法第14条第1項但書き参照)。
・法務部長官は、多重国籍者として定められた期間内に国籍を選択しなかった者に1年以内に1つの国籍を選択する旨命じなければならないが、実務上兵役準備役に編入された多重国籍者が国籍選択期間内に1つの国籍を選択しなかった場合には、原則として、その者に国籍選択命令を行っていない(国籍法第14条の2参照)。
・以上の内容を総合すると、大韓民国の男性である多重国籍者は、満18歳となった年の1月1日になる前に国籍を取得した場合は同年3月31日以前に、上記日付以降に国籍を取得した場合は、その取得日から3か月以内に各大韓民国国籍から自発的に離脱する旨を届け出ない以上、兵役義務が解消されるまでは大韓民国国籍から離脱することができない。

審判対象法律条項に対する裁判官らの意見の要旨
過剰禁止原則に違背し、国籍離脱の自由を侵害するか否か(積極)
・審判対象法律条項の立法目的は、兵役準備役に編入された者が兵役義務を免脱するための手段として国籍を離脱することを制限し、兵役義務履行の公平を確保することである。
・多重国籍者である男性に対し、国籍離脱の自由が例外なく制限されるにもかかわらず、多重国籍者に国籍選択手続や国籍選択期間が経過した場合に発生する制限等につき個別通知が行われていない。国籍法は、出生当時に父又は母が大韓民国国民である者は届出なく出生と同時に大韓民国国籍を取得する旨規定しているところ、大韓民国国籍の取得事実、多重国籍者の国籍選択手続、審判対象法律条項による国籍離脱制限等に対する理解が不十分な多重国籍者が発生する可能性は常にある。
・多重国籍者の主な生活根拠地や大韓民国における在留又は居住経験など具体的な事情によっては、社会通念上審判対象法律条項が定める期間内に国籍離脱を届け出ることを期待し難い事由が認められる余地がある。
・主務官庁が具体的な審査を通じて、主な生活根拠を国内に置き、相当な期間大韓民国国籍者としての恩恵を享受した後、兵役義務を履行すべき時期が近づいて国籍を離脱する多重国籍者を排除し、兵役義務履行の公平性が毀損されないと認められる場合にのみ、例外的に国籍選択期間が経過した後も国籍離脱を許可する方法で制度を運用すれば、兵役義務履行の公平性が毀損されるおそれは払拭される。
・兵役準備役に編入された多重国籍者の国籍選択期間が過ぎても、その期間内に国籍離脱届出を行わなかったことについて社会通念上その者に責任を問うことが困難な事情、すなわち、正当な事由が存在し、また、兵役義務履行の公平性確保という立法目的を毀損しないことが客観的に認められる場合であれば、兵役準備役に編入された多重国籍者に対し国籍選択期間が経過したからといって一律的に国籍離脱ができないとするのではなく、例外的に国籍離脱を許可する方策を設ける余地がある。
・審判対象法律条項の存在により複数国籍を維持することによって、対象者が被る実質的な不利益は具体的な事情により相当多大になるおそれがある。国によっては、多重国籍者が公職又は国家安保と直結する業務や他の国籍国と利益衝突の余地がある業務を担当することが制限される可能性がある。現実的にこのような制限が存在する場合、特定の職業選択や業務担当が制限されることに伴う私益侵害を軽視することはできない。

審判対象施行規則条項に対する裁判官らの意見の要旨
明確性原則に違背するか否か(消極)
(省略)

審判対象法律条項に対する継続適用を命ずる憲法不合致決定
・立法者は、主な生活根拠を外国に置いている多重国籍者のような場合、その者が審判対象法律条項で定める期間内に国籍離脱を届け出ることができなかったとしても、その事由が正当な場合に例外的にその要件及び手続等を定めて国籍離脱を届け出ることができるようにすることで審判対象法律条項の違憲性を除去することができる。
・憲法裁判所が審判対象法律条項に対する単純違憲決定をし、効力が直ちに喪失されれば、国籍選択や国籍離脱に対する期間制限が正当な場合にもその制限が直ちに無くなることととなり、兵役義務の公平性確保に困難が生じうる。よって、2022年9月30日までに改善立法がなされなければならず、それまでに改善立法がなされない場合、審判対象法律条項は2022年10月1日からその効力を失う。

決定の意義
・従前の審判対象法律条項と同一の内容の国籍法条項が憲法に違背しないと判示した憲裁の決定(2006年11月30日2005憲マ739決定及び憲裁2015年11月26日2013憲マ805、2014憲マ788(併合))は、この決定趣旨と抵触する範囲内でこれを変更する。
・この決定は、大韓民国の男性である多重国籍者が18歳となる年の3月31日が過ぎると兵役義務を解消するまではいかなる例外をも認めることなく国籍離脱ができないとする規定が国籍離脱の自由を著しく制限すると判断したものである。
・国籍法は、大韓民国国籍の父又は母から出生した者は当然に大韓民国国籍を取得する旨規定しているため、国籍付与と関連して属地主義の態度を取る国の国籍又は他方の父母の国籍とともに複数国籍を所持する場合が生じうる。多重国籍者の中には、主な生活根拠を国内に置き、相当な期間大韓民国国籍者としての恩恵を享受した後、兵役義務を履行すべき時期が近づいて国籍を離脱する者がいるが、これは、「兵役義務履行の公平性確保」を阻害するため許容され難い。他方で、外国にのみ主に在留・居住し、大韓民国とは特段の接点がない者もいるが、審判対象法律条項は一切例外を認めず上記時期が経過すると兵役義務から脱する場合にのみ国籍離脱が可能である旨規定しているところ、この決定において憲法裁判所はそのような一律的な制限に違憲性があると判断した。
・審判対象法律条項の立法目的である「兵役義務履行の公平性確保」は、我が社会で極めて重要な価値であり、これらの条項が立法目的の達成に寄与するという点は明らかである。したがって、今後、立法者はこのような立法目的が毀損されないようにする一方で、主務官庁が具体的な事情を考慮し国籍離脱を例外的に許可することができる適正な基準を確立する必要がある。

2016憲マ889[国籍法第12条第2項本文等違憲確認] [憲法裁判所判例]