外国判例の日本語訳を追加致しました。(韓国:(民事)プールでの事故の工作物責任に関して、いわゆる「ハンドの定式」が参考にされた事件[大法院2019.11.28.宣告])
2020.02.19
【判示事項】
[1] | 民法第758条第1項で定める「工作物の設置・保存上の瑕疵」の意味並びにその存否を判断する基準及び方法 |
[2] | 地方公企業である甲公団が管理・運営するプールは、一つのプール槽内に深さが異なる大人用エリアと子供用エリアが水面上に浮かんでいるコースロープ(course rope)のみで区分され一緒に設置されており、水深表示が体育施設の設置・利用に関する法律施行規則第8条[別紙4]で定めるプール槽の壁面ではなくプール槽の各エリアの縁になされているが、乙(事故当時満6歳)が母親丙、姉丁とともに子供用エリアで水遊びをし、外に出て休んだ後再び水遊びをするために一人でプール槽に向かって走って行き、浮き輪をつけずに大人用エリアで溺れて意識を失った状態で発見された事故により無酸素性脳損傷を被り、四肢麻痺、両眼失明等の状態に至ったところ、乙、丙、丁及び父親戊が甲公団を相手にプールに設置・保存上の瑕疵があったと主張して民法第758条第1項による損害賠償を求めた事案において、上記プールには、大人用エリアと子供用エリアを同じプール槽内に設置していたという点や水深表示を明確にしていなかった点などの瑕疵があり、このような瑕疵により上記事故が発生したといえる以上、甲公団に責任がないということはできず、乙に対する保護監督義務を負う丙らの注意義務違反が事故発生の共同原因になったとしても、このことが甲公団に対しプールの設置・保存上の瑕疵による責任を認めるにあたり障害にはならないにもかかわらず、これと異なった判示をして乙らの主張を排斥した原審判断には工作物責任に関する法理誤解等の誤りがあるとした事例 |
【判決要旨】
[1] | 民法第758条第1項は、「工作物の設置又は保存上の瑕疵により他人に損害を加えたときは、工作物占有者が損害を賠償する責任を負う。しかし、占有者が損害の防止に必要な注意を怠らなかったときは、その所有者が損害を賠償する責任を負う。」と規定している。上記規定の立法趣旨は、工作物の管理者は危険の防止に必要な注意を果たさなければならず、万一、危険が現実化して損害が発生した場合には、それらの者に賠償責任を負わせるのが公平であるということにある。したがって、「工作物の設置・保存上の瑕疵」とは、工作物がその用途に応じて通常備えるべき安全性を備えていない状態にあることをいい、上記の安全性を備えたか否かを判断する際は、工作物を設置・保存する者がその工作物の危険性に比例して社会通念上一般的に求められる程度に危険防止措置を果たしたか否かを基準に判断しなければならない。瑕疵の存在に関する証明責任は被害者にあるものの、一旦瑕疵があることが認められ、その瑕疵が事故の共同原因となる以上、その事故が上記の瑕疵がなかったとしても避けられないものであったという点が工作物の所有者又は占有者によって証明されなければ、その損害は工作物の設置又は保存の瑕疵により発生したものと解するのが妥当である。 この場合、瑕疵の有無を判断する際は、危険が現実化する可能性の程度、危険が現実化し事故が発生したときに侵害される法益の重大性及び被害の程度、事故防止のための事前措置にかかる費用又は危険防止措置を行うことによって犠牲となる利益等を総合的に考慮しなければならない。 このような法理は、「不合理な損害の危険」を最小化するための措置であり、危険による損害を危険を回避するための負担と比較することを求めるという側面から法経済学における費用・便益分析であることと同時に均衡アプローチ法に該当する。裁判官が法を創造する属性を帯びた不法行為法において裁判官が行うべき均衡設定の役割が重要であるにもかかわらず、このような均衡設定は具体的事案との関連性の中で初めて実質的な内容を伴うものであるため、予め詳細な基準を作成して提示するのは困難であるというのが現実である。このとき、いわゆる「Hand Rule」を参考にして、事故防止のための事前措置を行うのにかかる費用(B)及び事故が発生する確率(P)並びに事故が発生した場合の被害の程度(L)を検討し「B<P・L」である場合には、工作物の危険性と比べ社会通念上求められる危険防止措置を果たさなかったものとみなし工作物の占有者に不法行為責任を認めるアプローチ方式も考慮することができる。 |
[2] | 地方公企業である甲公団が管理・運営するプールは、一つのプール槽内に深さが異なる大人用エリアと子供用エリアが水面上に浮かんでいるコースロープ(course rope)のみで区分され一緒に設置されており、水深表示が体育施設の設置・利用に関する法律施行規則(以下「体育施設法施行規則」という)第8条[別紙4]で定めるプール槽の壁面ではなくプール槽の各エリアの縁にされているが、乙(事故当時満6歳)が母親丙、姉丁とともに子供用エリアで水遊びをし、外に出て休んだ後に再び水遊びをするために一人でプール槽に向かって走って行き、浮き輪をつけずに大人用エリアで溺れて意識を失った状態で発見された事故により無酸素性脳損傷を被り、四肢麻痺、両眼失明等の状態に至ったところ、乙、丙、丁及び父親戊が甲公団を相手にプールに設置・保存上の瑕疵があったと主張して民法第758条第1項による損害賠償を求めた事案において、体育施設の設置・利用に関する法律上施設基準など安全に関する法令に違反していないからといって工作物がその用途に応じて通常備えるべき安全性を備えたと断定することはできない点、体育施設に関する規定の内容及び体系を検討すると、運動施設であるプールとアメニティ施設であるスライダー、乳児及び子供用プール槽は区分して設置することを前提としている点、一つのプール槽内に大人用エリアと子供用エリアが一緒になっている場合、プール槽が分離されている場合よりも子供が溺れる事故が発生する可能性が高い点、プール施設で大人用エリアと子供用エリアを分離しないことにより子供が溺れる事故が発生する可能性及びその事故により予想される被害の程度を、大人用エリアと子供用エリアを分離して設置するのに追加でかかる費用ないし既に設置された既存施設を上記のように分離するのにかかる費用と比較すると、前者の方がはるかに高額になることが十分に予想されうる点、甲公団が体育施設法施行規則第8条[別表4]に違反し、水深表示をプール槽の壁面に明確にしなかった点などを総合すると、上記プールには、大人用エリアと子供用エリアを同じプール槽内に設置したという点や水深表示を明確にしなかった点などの瑕疵があり、このような瑕疵により上記事故が発生したといえる以上、甲公団に責任がないということはできず、乙に対する保護監督義務を負う丙らの注意義務違反が事故発生の共同原因になったとしても、このことが甲公団に対しプールの設置・保存上の瑕疵による責任を認めるにあたり障害にはならないにもかかわらず、これと異なった判示をして乙らの主張を排斥した原審判断には工作物責任に関する法理誤解等の誤りがあるとした事例 |
2017ダ14895判決[損害賠償(キ)] [判例公報2019 158]