2021.03.30
【判示事項】
[1] |
当事者が表示した文言にその意味が明確に表れていない場合、法律行為を解する方法 |
[2] |
いかなる事実が特定の法律行為に関する条件であるか及び当該条件の成就若しくは不成就により法律行為の効力が発生し、又は消滅するかが法律行為解釈の問題であるか否か(積極) |
[3] |
契約成立のための当事者間の「意思の合致」の程度及び当事者が意思の合致がなされなければならないと表示した事項について合意がなされなかった場合、契約が成立するか否か(消極)/売買契約が成立するには、少なくとも売主と買主は具体的に特定されなければならないか否か(積極) |
[4] |
民法第150条第1項の規定の趣旨及び信義誠実に反して条件の成就を妨害したといえる場合 |
[5] |
民法第150条第1項は、契約当事者間で正当に期待される協力を信義誠実に反して拒否することにより契約で定める事項を履行できなくなった場合に類推適用できるか否か(積極)及び上記のように類推適用する場合、条件成就擬制と直接的な関連のない事実関係を擬制し、又は契約の定めのない法律効果を認めることができるか否か(消極) |
[6] |
甲私募投資専門会社等が乙外国法人の持分全部を保有していた丙株式会社等から乙法人の持分の一部を買い受ける契約を締結すると同時に、丙会社と「3年以内に乙法人の企業公開が行われなければ一方当事者が株式を売り渡すことができる。株式を売り渡す一方当事者(売渡株主)は原則として入札手続を行わなければならず、その結果買受予定者が決定された場合、正式契約を締結する前に相手方当事者に売渡決定通知を行わなければならない。売渡株主は、相手方当事者に保有株式全部に対する同伴売渡要求を行うことができ、この場合、相手方当事者は、売渡株主の同伴売渡要求に同意し(x)、又は売渡決定通知に記載された価格若しくは事前に約定した価格のうち相手方が選択した価格で売渡株主の株式全部を買い受け(y)、又は売渡株主が保有する株式全部をより有利な条件で新たな第三者に売り渡すことを提案することができる(z)。」などの内容で株主間契約を締結し、その後、丁有限会社が甲会社等から上記持分買受契約及び株主間契約上の地位を承継したが、3年が過ぎた後も乙法人の企業公開が行われないところ、丁会社が同伴売渡要求権行使を前提に乙法人持分の売却手続を進めたものの丙会社が資料提供等に協力しないなどの理由で売却手続を中断した後、丙会社を相手に丙会社の信義誠実に反する条件成就の妨害により民法第150条第1項に従い丁会社と丙会社間で売買契約締結が擬制されたとして売買代金の支払を求めた事案において、丙会社が丁会社に入札手続進行に必要な投資紹介書作成のための資料をきちんと提供しなかった行為のみを理由に信義誠実に反し条件の成就を妨害したとはいい難く、その条件成就による法律効果を定めることもできないため、民法第150条第1項に従い丁会社と丙会社間で丁会社所有の乙法人持分に関する売買契約締結が擬制されるとはいえないとした事例 |
[7] |
何らかの義務を負う内容の記載がある文面に「最大限努力します。」、「最大限協力する。」又は「努力しなければならない。」と記載されている場合、当事者が上記義務を法律上負うという趣旨と解さなければならないか否か(原則的消極)及び上記語句にもかかわらず上記義務を法的拘束力のある義務というべき場合 |
【判決要旨】
[1]~[5] 省略
[6] |
甲私募投資専門会社等が乙外国法人の持分全部を保有していた丙株式会社等から乙法人の持分の一部を買い受ける契約を締結すると同時に、丙会社と「3年以内に乙法人の企業公開が行われなければ一方当事者が株式を売り渡すことができる。株式を売り渡す一方当事者(売渡株主)は原則として入札手続を行わなければならず、その結果買受予定者が決定された場合、正式契約を締結する前に相手方当事者に売渡決定通知を行わなければならない。売渡株主は、相手方当事者に保有株式全部に対する同伴売渡要求を行うことができ、この場合、相手方当事者は売渡株主の同伴売渡要求に同意し(x)、又は売渡決定通知に記載された価格若しくは事前に約定した価格のうち相手方が選択した価格で売渡株主の株式全部を買い受け(y)、又は売渡株主が保有する株式全部をより有利な条件で新たな第三者に売り渡すことを提案することができる(z)。」などの内容で株主間契約を締結し、その後、丁有限会社が甲会社等から上記持分買受契約及び株主間契約上の地位を承継したが、3年が過ぎた後も乙法人の企業公開が行われないところ、丁会社が同伴売渡要求権行使を前提に乙法人持分の売却手続を進めたものの丙会社が資料提供等に協力しないなどの理由で売却手続を中断した後、丙会社を相手に丙会社の信義誠実に反する条件成就の妨害により民法第150条第1項に従い丁会社と丙会社間で売買契約締結が擬制されたとして売買代金の支払を求めた事案において、丙会社は、丁会社が行う売却手続の状況と進行段階に応じて乙法人持分の円滑な売却のために適期に乙法人に関する資料を提供し、乙法人を実査する機会を付与するなどの方法により協力する信義則上義務を負うが、丁会社の同伴売渡要求権行使のみでは売渡相手方が誰であるか、売却金額がいくらであるか具体的に特定されない点、丙会社の選択があってのみ(x)、(y)、(z)に従い売買契約の当事者、売買対象、売買金額等が全く異なる別個の売買契約の締結が擬制される点、上記売却手続の法的拘束力がない買収意向書のみ提出された状況で投資紹介書作成を準備していた初期段階で中断された点など諸般の事情に照らすと、丙会社が丁会社に入札手続進行に必要な投資紹介書作成のための資料をきちんと提供しなかった行為のみを理由に信義誠実に反して条件の成就を妨害したとはいい難く、その条件成就による法律効果を定めることもできないため、民法第150条第1項に従い丁会社と丙会社間で丁会社所有の乙法人持分に関する売買契約締結が擬制されるとはいえないとした事例 |
[7] |
何らかの義務を負う内容の記載がある文面に「最大限努力します。」、「最大限協力する。」又は「努力しなければならない。」と記載されている場合、特段の事情がない限り、当事者が上記語句を記載した意味は文面それ自体を見ると当該義務を法的には負うものではないが、事情が許す限りその履行を事実上行うという趣旨で解するのが妥当である。当事者が当該表示行為により示そうとした意思は、その語句を含む全体の文言を考慮して解さなければならないが、当該義務を法律上負うという意思であったならば敢えて上記語句を使用する必要がなく、上記語句を挿入したならばその語句を意味のないものと見ることはできないためである。ただし、契約書の全体的な語句の内容、契約の締結経緯、当事者が契約を締結することによって達成しようとする目的と真正な意思、当事者に義務が課されたものとみなした場合の履行可能性の有無等を総合的に考慮して、当事者が当該義務を法律上負う意思であったといえる特段の事情が認められる場合には、上記語句にもかかわらず法的に拘束力を有する義務といわなければならない。 |
2018ダ223054判決[売買代金等支払請求の訴え] [判例公報343]