TOPその他更新情報 外国判例の日本語訳を追加致しました。(韓国:(刑事)代作させた美術作品の販売が詐欺罪にあたらないとされた事件[大法院2020.6.25.宣告]

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外国判例の日本語訳を追加致しました。(韓国:(刑事)代作させた美術作品の販売が詐欺罪にあたらないとされた事件[大法院2020.6.25.宣告]

【判示事項】

[1] 2人以上が著作物の作成に関与した場合、著作者が誰であるのかを判断する基準/美術著作物の創作過程に複数の人が関与している場合、どの過程にどの程度関与すれば創作的な表現形式に寄与した者として著作者と認められるのかに対する司法審査基準
[2]  詐欺罪の要件として「不作為による欺罔」の意味及びこのとき法律上告知義務が認められる範囲/法律上告知義務の根拠となる取引の内容や取引慣行等の取引実情に関する事実を主張・証明する責任の所在(=検事)
[3] 被告人が画家甲に金銭を与えて自身の既存のコラージュ作品を絵画として描かせ、又は自身が抽象的なアイデアのみを提供してこれを甲の好きなように絵画で表現させるなどの作業を指示した後、甲から完成された絵を受け取って軽微な作業のみを追加して自身の署名をしたにもかかわらず、上記の方法により絵を完成させるという事実を告知せず、事実上甲等が描いた絵をあたかも自身が直接描いた親作であるかのように展示して被害者らに絵(美術作品)を販売し、代金相当の金銭を騙取したという内容で起訴された事案において、被害者らが上記美術作品を被告人の親作と錯誤した状態で購入したと断定することは困難であるとして被告人に無罪を宣告した原審判断を認めた事例

【判決要旨】

[1] 著作権法上「著作物」は人間の思想又は感情を表現した創作物をいい、「著作者」は著作物を創作した者をいう(著作権法第2条第1号、第2号)。著作権は具体的に外部に表現した創作的な表現形式のみを保護対象とするため、2人以上が著作物の作成に関与した場合、その中で創作的な表現形式自体に寄与した者のみがその著作物の著作者となり、創作的な表現形式に寄与しなかった者は、たとえ著作物の作成過程でアイデアや素材又は必要な資料を提供するなどの関与をしたとしても、その著作物の著作者となるものではない。ここで思想や感情が「表現」されたというには、頭の中で構想されたことのみでは不十分であり、いかなる形態や方法であっても外部に表出されなければならない。その表出される方法や形態については何らの制限がない。
著作物の中でも美術著作物は人間の思想や感情が視覚的形象や色彩又はこれらの組合せによって美的に表現されている著作物である(著作権法第4条第1項)。美術著作物は他の一般著作物と異なり、それが化体された有体物が主な取引の対象となり、その有体物を公衆が見ることができるように公開する「展示」という利用形態が特別に重要な意味を有する。美術著作物の創作行為は公開的に行われない場合が多いため、実際に誰が著作者であるのかが争われる場合が多々ある。著作物を創作した人を著作者という際、その創作行為は「事実行為」であるため、誰が著作物を創作したのかは基本的に事実認定の問題である。しかし、創作過程においていかなる形態であっても複数の人が関与している場合に、どの過程にどの程度関与すれば創作的な表現形式に寄与した者として著作者と認められるのかは法的評価の問題である。これは、美術著作物の作成に関与した複数の人が共同著作者であるのか、作家と助手の関係にあるのか、又は著作名義人と代作画家の関係にあるのかの問題でもある。しかし、美術著作物を創作するいくつかの段階の過程で、作家の思想や感情がどの段階で、いかなる形態と方法によって外部に表出されたとみなすのかは容易なことではない。本来、これを検討することは批評と談論によって扱われるべき美学的問題であるためである。そのため、これに関する論争は美学的な評価又は作家に対する倫理的評価に関する問題とみなし、芸術の領域における批評と談論を通じて自律的に解決することが社会的に望ましく、これに対する司法判断は、その論争が法的紛争に飛び火して著作権問題が真っ向から争点となった場合に制限されなければならない。
[2] 詐欺罪の要件としての欺罔は、広く財産上の取引関係において相互に守るべき信義と誠実の義務に背くすべての積極的又は消極的な行為をいい、このような消極的行為としての不作為による欺罔は、法律上告知義務を有する者が一定の事実に関して相手方が錯誤に陥っていることを知りながらもこれを告知しないことをいう。ここで法律上告知義務は、法令、契約、慣習、条理等によって認められるものであり、問題となる具体的な事例に即応して取引実情と信義誠実の原則によって決定されなければならない。また、法律上告知義務を認めるか否かは法律問題として上告審の審判対象となるが、その根拠となる取引の内容や取引慣行等の取引実情に関する事実を主張・証明する責任は検事にある。
[3] 被告人が普段から親交のあった画家甲に金銭を与えて自身の既存のコラージュ作品を絵画として描かせたり、自身が抽象的なアイデアのみを提供してこれを甲の好きなように絵画で表現させ、又は既存の自身の絵をそのまま描いてもらうなどの作業を指示した後、甲から完成された絵を受け取って背景色を一部塗り重ねるなどの軽微な作業のみを追加して自身の署名をしたにもかかわらず、上記の方法により絵を完成させるという事実を告知せず、事実上甲等が描いた絵をあたかも自身が直接描いた親作であるかのように展示して被害者らに絵(以下「美術作品」という)を販売し、代金相当の金銭を騙取したという内容で起訴された事案において、被告人が美術作品の創作過程、特に、助手など他の人が関与した事情を知らせなかったことが信義則上告知義務違反として詐欺罪における欺罔行為に該当し、その絵を販売したことが販売代金の騙取行為であるとみるには、2つの前提、すなわち、美術作品の取引において創作過程を知らせること、特に、作家が助手の助けを受けたのかなど他の関与者がいた旨を知らせることが慣行であるということ及び美術作品を購入した人がこのような事情に関する告知を受けていたならば取引に臨まなかったであろうという関係が認められなければならず、美術作品の取引において欺罔の有無を判断する際には、美術作品に偽作の疑いや著作権に関する争いがあるなどの特段の事情がない限り、法院は、美術作品の価値評価等は専門家の意見を尊重する司法自制の原則を守らなければならないという理由で、被害者らの購入動機等の諸般の事情に照らし、検事が提出した証拠のみでは被害者らが美術作品を被告人の親作と錯誤した状態で購入したと断定することは困難であるとして被告人に無罪を宣告した原審判断を首肯した事例

2018ド13696判決[詐欺] [判例公報2020 1552]