2021.01.22
【判示事項】
[1] |
使用者が勤労基準法第24条に従い勤労者を解雇した日から3年以内の期間中に解雇勤労者が解雇当時担当していた業務と同一の業務を行う勤労者を採用する場合、解雇勤労者を優先再雇用する義務があるか否か(原則的積極)及びこのとき使用者が解雇勤労者に雇用契約を締結する意思の有無を確認しないまま第三者を採用した場合、勤労基準法第25条第1項で定める優先再雇用義務に違反したことになるか(原則的積極) |
[2] |
甲が、乙財団法人が運営する障害者福祉施設で生活部の業務を担当する生活リハビリ教師として勤務していたが、経営上の理由により解雇された後3年以内の期間中に乙法人が何度か生活リハビリ教師を採用したものの、甲に採用事実を告知又は雇用契約を締結する意思の有無を確認しなかったところ、乙法人が勤労基準法第25条第1項で定める優先再雇用義務に違反した時点が問題となった事案において、遅くとも甲が解雇当時担当していた生活部の業務を担当する生活リハビリ教師の業務に勤労者2人目を採用した頃には乙法人の優先再雇用義務が発生していたとした事例 |
[3] |
使用者が勤労基準法第25条第1項で定める優先再雇用義務を履行しない場合、解雇勤労者が使用者を相手に雇用の意思表示に代わる判決を求める司法上の権利があるか否か(積極)及び判決が確定すれば使用者と解雇勤労者との間に雇用関係が成立するか否か(積極)/このとき解雇勤労者が使用者の優先再雇用義務不履行に対し、優先再雇用義務が発生した時から雇用関係が成立する時までの賃金相当の損害賠償金を請求することができるか否か(積極) |
[4] |
使用者の雇用義務不履行を理由に、雇用義務を履行していたならば受け取ることのできた賃金相当額を損害賠償として請求する場合、勤労者が他の職場に勤労を提供することによって得た利益が使用者の雇用義務不履行との間に相当因果関係が認められるならば、これを損害賠償額を算定する際に控除しなければならないか否か(積極)/このとき勤労基準法第46条が定める休業手当に関する規定を適用することができるか否か(消極) |
【判決要旨】
[1] |
勤労基準法第25条第1項の規定の内容と、自身に帰責事由がないにもかかわらず経営上の理由により職場を失った勤労者に以前の職場に復帰できる機会を保障し解雇勤労者を保護するという立法趣旨等を考慮すると、使用者は、勤労基準法第24条に従い勤労者を解雇した日から3年以内の期間中に解雇勤労者が解雇当時担当していた業務と同一の業務を行う勤労者を採用する場合、解雇勤労者が反対する意思を表示したり雇用契約を締結することを期待し難い客観的な事由があるなどの特段の事情がある場合でない限り、解雇勤労者を優先再雇用する義務がある。
このとき、使用者が解雇勤労者に雇用契約を締結する意思の有無を確認しないまま第三者を採用した場合、同様に、解雇勤労者が雇用契約締結を望まなかったであろう事由や雇用契約を締結することを期待し難い客観的な事由があったなどの特段の事情がない限り、勤労基準法第25条第1項が定める優先再雇用義務に違反したといえる。 |
[2] |
甲が、乙財団法人が運営する障害者福祉施設で生活部の業務を担当する生活リハビリ教師として勤務していたが、経営上の理由により解雇された後3年以内の期間中に乙法人が何度か生活リハビリ教師を採用したものの、甲に採用事実を告知又は雇用契約を締結する意思の有無を確認しなかったところ、乙法人が勤労基準法第25条第1項で定める優先再雇用義務に違反した時点が問題となった事案において、甲が雇用契約を締結することを望まなかったであろう事由や乙法人に甲と雇用契約を締結することを期待し難い客観的な事由があったとはいえず、乙法人が甲に採用事実と採用条件を告知し雇用契約を締結する意思の有無を確認しなかったため、遅くとも甲が解雇当時担当していた生活部の業務を担当する生活リハビリ教師の業務に勤労者2人目を採用した頃には乙法人の優先再雇用義務が発生していたといえるにもかかわらず、これとは異なり、甲が乙法人に再雇用を望む旨を表示した以降で乙法人が新規採用を行った時に初めて乙法人の優先再雇用義務が発生したとした原審判断に法理誤解の誤りがあったとした事例。 |
[3] |
勤労基準法第25条第1項に従い使用者は解雇勤労者を優先再雇用する義務があるため、解雇勤労者は、使用者が上記の優先再雇用義務を履行しない場合、使用者を相手に雇用の意思表示に代わる判決を求める司法上の権利を有し、判決が確定すれば使用者と解雇勤労者との間に雇用関係が成立する。また、解雇勤労者は、使用者が上記規定に違反し優先再雇用義務を履行しなかったことに対し、優先再雇用義務が発生した時から雇用関係が成立する時までの賃金相当の損害賠償金を請求することができる。 |
[4] |
債務不履行や不法行為等により損害を被った債権者又は被害者等が同一の原因により利益を得た場合には、公平の観念上その利益は損害賠償額を算定する際に控除されなければならない。このように損害賠償額を算定する際、損益相殺が許容されるためには、損害賠償責任の原因となる行為により被害者が新たに利得を得ており、その利得と損害賠償責任の原因である行為との間に相当因果関係がなければならない。使用者の雇用義務不履行を理由に、雇用義務を履行していたならば受け取ることのできた賃金相当額を損害賠償として請求する場合、勤労者が使用者に提供すべきであった勤労を他の職場に提供することによって得た利益が使用者の雇用義務不履行との間に相当因果関係が認められるならば、このような利益は雇用義務不履行による損害賠償額を算定する際に控除されなければならない。一方、使用者の雇用義務不履行を理由に損害賠償を求める場合のように、勤労関係が一旦解消されて有効に存続しない場合であるならば、勤労基準法第46条が定める休業手当に関する規定を適用することはできない。 |
2016ダ13437判決[優先再雇用義務違反等] [判例公報2020 89]