外国判例の日本語訳を追加致しました。(韓国:(憲法訴願)日韓請求権協定第3条による紛争解決不作為の違憲確認事件[憲法裁判所2021.08.31.決定])
【決定文要旨】
憲法裁判所は2021年8月31日、韓国人BC級戦犯が日本に対して有する請求権が「大韓民国と日本国との間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」(条約第172号、以下「本件協定」という)第2条第1項により消滅したか否かに関する日韓両国間の解釈上の紛争を上記協定第3条が定める手続に従い解決していない被請求人の不作為が請求人らの基本権を侵害しているか否かにつき、裁判官5人の意見により却下決定をした。これに対し、韓国人BC級戦犯が被った被害のうち国際戦犯裁判による処罰による被害部分については法廷意見と同じく却下の結論に賛成するが、日帝の強制動員による被害部分については被請求人の上記不作為により請求人らの基本権が侵害され、違憲とすべきだという裁判官4人の反対意見がある。[却下]
事件の概要
・請求人らは、日帝強占期(訳注:日本統治時代)太平洋戦争が勃発すると、日帝により連合軍の捕虜を監視する捕虜監視員として強制動員され東南アジア各国に位置する連合軍捕虜収容所に勤務し、終戦後に連合国で行われた国際戦犯裁判に回付されBC級戦犯として処罰を受けた人(以下「韓国人BC級戦犯」という)またはその遺族である。
・被請求人は、外交、外国との通商交渉及びそれに関する総括・調整、国際関係業務に関する調整、条約その他国際協定、在外国民の保護・支援、在外同胞政策の樹立、国際情勢の調査・分析に関する事務を管掌する行政部所属の国家機関である。
・大韓民国(以下「韓国」という)は1965年6月22日、日本国(以下「日本」という)との間に「大韓民国と日本国との間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」(条約第172条)を締結した。
・請求人らは、自身が日本に対して有する賠償請求権が上記協定により消滅したか否かに関し、既に消滅したとする日本政府と消滅していないとする韓国政府との間には上記請求権に関する解釈上の紛争が存在するため、被請求人は上記協定第3条が定める手続に従い解釈上の紛争を解決するための措置を取る義務があるにもかかわらず、これを全く履行していないと主張し、2014年10月14日、被請求人の不作為が請求人らの基本権を侵害し違憲であるという確認を求める本件憲法訴願審判を請求した。
審判対象
・本件審判の対象は、韓国人BC級戦犯が日本に対して有する請求権が「大韓民国と日本国との間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定」(条約第172条、以下「本件協定」という)第2条第1項により消滅したか否かに関する日韓両国間の解釈上の紛争を上記協定第3条が定める手続に従って解決していない被請求人の不作為が請求人らの基本権を侵害しているか否かである。
多数意見(却下意見)
・本件において請求人らが主張する被害は、大きく、韓国人BC級戦犯が国際戦犯裁判による処罰により被った被害部分(以下「国際戦犯裁判による処罰による被害」という)と、その他日帝の強制動員において日帝による反人道的かつ不法な行為により被った被害部分(以下「日帝の強制動員による被害」という)に分けることができる。
(1) 国際戦犯裁判による処罰による被害部分
・第2次世界大戦以後、ドイツのナチス戦犯を処罰したニュルンベルク裁判と日帝戦犯を処罰した東京裁判等を通じて、個人が「侵略に対する犯罪」、「反人道的犯罪」または「戦争犯罪」を犯した場合、国際戦犯裁判を通じて処罰しなければならないという国際法的原則が成立した。そして、このような国際法的原則は1946年国連総会の決議を通じて国際慣習法として確立され、以後、集団殺害犯罪、反人道的犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪等を扱う国際刑事裁判所が設置された。
・我が国の憲法前文は国際平和主義を宣明しており、第5条第1項で「侵略戦争禁止」という国際法上の原則を憲法に受け入れており、第6条で「国際法秩序の尊重」を明示している。我が国は、個人が犯した侵略犯罪、反人道的犯罪、戦争犯罪等に対し、国際戦犯裁判を通じて処罰しなければならないという国際慣習法に関する条約を国会の同意を経て積極的に受け入れており、「国際刑事裁判所管轄犯罪の処罰等に関する法律」を制定・施行している。このような事情を総合すると、国内のすべての国家機関は憲法及び法律に基づいて国際戦犯裁判所の国際法的地位及び判決の効力を尊重しなければならない。
・日帝強占期の韓国人BC級戦犯が日帝により捕虜監視員として強制動員され、日本軍の命令に従って連合軍の捕虜を監視し、国際戦犯裁判所に回付され、きちんとした助力を受けられずに処罰を受けた遺憾な歴史的事実は認められる。しかし、国際戦犯裁判所判決は国際法的に有効であり、被請求人をはじめ国内の国家機関がこれを尊重すべきであることは既に述べたとおりである。したがって、国際戦犯裁判所判決による処罰を受けたことで生じた韓国人BC級戦犯の被害補償問題を日本軍慰安婦被害者や原爆被害者等が有する日帝の反人道的不法行為による賠償請求権の問題と同一の範疇と見なして本件協定の対象になるとはいい難い。
・これに従い、韓国人BC級戦犯が国際戦犯裁判による処罰により被った被害と関連し、被請求人に本件協定第3条による紛争解決手続に進むべき具体的な作為義務が認められるとはいい難いため、この部分と関連した審判請求は不適法である。
(2) 日帝の強制動員による被害部分
本件記録によれば、次の事情を知ることができる。第一に、請求人らは韓国人BC級戦犯問題と関連し、国際戦犯裁判による処罰による被害の問題に集中してきたものと考えられる。第二に、日本に居住する韓国人BC級戦犯で構成された「同進会」団体も、日本政府を相手に国際戦犯裁判所においてBC級戦犯と認定され、処罰を受けた被害の補償を要求し、過去に日本政府はこれを一部受け入れて補償を行っている。第三に、韓国政府は、国際戦犯裁判による処罰により被害を被った韓国人BC級戦犯問題は本件協定とは無関係に日本が主導的に責任を負うべき問題であるとの態度を取ってきており、日本側に立法を通じた解決を持続的に促してきた。このような事情を総合すると、国際戦犯裁判による処罰による被害とは異なり、韓国人BC級戦犯が日帝の強制動員により被った被害の場合には、日本の責任と関連し、本件協定の解釈に関する日韓両国間の紛争が現実的に存在するか否かが不透明である。
仮に、韓国人BC級戦犯が日帝の強制動員により被った被害に対する日本の責任と関連し、韓国と日本との間に本件協定の解釈上の紛争が存在すると見ても、被請求人の外交的裁量を考慮すれば、被請求人がこれまで外交的経路を通じて韓国人BC級戦犯問題に関する全般的な解決及び補償等を日本側に持続的に要求してきた以上、被請求人は本件協定第3条による自身の作為義務を不履行したとはいい難い。
日帝の強制動員による被害部分と関連し、韓国と日本との間に本件協定の解釈に関する紛争が成熟し現実的に存在するとはいい難いため、被請求人に本件協定第3条による紛争解決手続に進むべき作為義務があるとはいい難く、仮に、韓国と日本との間に本件協定解釈上の紛争が存在するとしても、被請求人は持続的な外交的措置を通じてその作為義務を履行したといえる。したがって、本件審判請求はすべて不適法であるため却下するのが妥当である。
2014憲マ888[大韓民国と日本国との間の財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する協定第3条の紛争解決不作為の違憲確認] [憲法裁判所判例]