外国判例の日本語訳を追加致しました。(韓国:(民事)日帝強制徴用事件[大法院2012.5.24.宣告])
2013.11.25
【判決要旨】
- 国際裁判管轄を決定する際には当事者間の公平、裁判の適正、迅速及び経済に基づく基本理念に従って行い、具体的には訴訟当事者等の公平、便宜及び予測可能性のような個人的な利益のみならず、裁判の適正、迅速、効率及び判決の実効性等のような裁判所ないし国家の利益も共に考慮しなければならず、このような多様な利益のうちどのような利益を保護する必要があるのかは、個別の事件における法廷地と当事者との実質的関連性及び法廷地と紛争がなされた事案との実質的関連性を客観的な基準として、合理的に判断しなければならない。
- 日帝強占期(訳注:日本統治時代)に国民徴用令により強制徴用されて日本国の会社である三菱重工業株式会社(以下「旧三菱」という。)において強制労働に従事した大韓民国国民甲らが旧三菱が解散した後新たに設立された三菱重工業株式会社(以下「三菱」という。)を相手として国際法違反及び不法行為を理由とした損害賠償及び未払賃金の支払いを求めた事案において、(i)三菱が日本法により設立された日本法人として主たる事務所を日本国内に置いているけれども、大韓民国内での業務遂行のための連絡事務所が訴え提起当時大韓民国内に存在していた点、(ii)大韓民国は旧三菱が日本国と共に甲らを強制徴用した後強制労働をさせた一連の不法行為のうちの一部がなされた不法行為地である点、(iii)被害者である甲らが全て大韓民国に居住しており、事案の内容が大韓民国の歴史及び政治的変動状況等と密接な関係がある点、並びに(iv)甲らの不法行為を原因とする損害賠償請求及び未払賃金支払請求の間には、客観的関連性が認定される点等に照らして、大韓民国は事件当事者及び紛争がなされた事案と実質的関連性があるという理由により、大韓民国の裁判所の国際裁判管轄権を認定した事例
- 民事訴訟法第217条第3号は、外国裁判所の確定判決の効力を認定することが大韓民国の善良な風俗その他の社会秩序に反してはならない点を外国判決承認要件の1つとして規定しているところ、ここにおいて、「外国判決の効力を認定すること」すなわち「外国判決を承認した結果」が大韓民国の善良な風俗その他の社会秩序に反することとは、その承認可否を判断する時点において、外国判決の承認が大韓民国の国内法秩序が保護しようとする基本的な道徳的信念及び社会秩序に及ぼす影響を外国判決が扱った事案と大韓民国との関連性の程度に照らして判断しなければならず、この際には、その外国判決の主文のみならず理由及び外国判決を承認する場合に発生する結果まで総合して検討しなければならない。
- 日帝強占期に国民徴用令により強制徴用されて旧三菱において強制労働に従事した大韓民国国民甲らが旧三菱が解散した後新たに設立された三菱を相手として国際法違反及び不法行為を理由とした損害賠償及び未払賃金の支払いを求めた事案において、甲らが三菱を相手方として同一の請求原因により日本国において提起した訴訟の敗訴確定判決(以下「日本判決」という。)理由には、日本の朝鮮半島及び韓国人に対する植民支配が合法的という規範的認識を前提として、日帝の国家総動員法及び国民徴用令を朝鮮半島及び甲らに適用することが有効であると評価した部分が包含されているところ、大韓民国憲法の規定に照らしてみれば、日帝強占期の日本の朝鮮半島支配は、規範的な観点において不法な強占に過ぎず、日本の不法な支配を原因とした法律関係のうち、大韓民国の憲法精神と両立することができないものは、その効力が排除されると解さなければならないので、日本判決の理由は日帝強占期の強制動員自体を不法であると見ている大韓民国憲法の核心的価値と正面から衝突するものであり、このような判決理由が込められた日本判決をそのまま承認する結果はそれ自体で大韓民国の善良な風俗その他の社会秩序に反するものであることが明らかなので、わが国において日本判決を承認して効力を認定することができないところも、これと異なった 原審判決に法理誤解の違法があるとした事例
- 日帝強占期に国民徴用令により強制徴用されて日本国の会社である旧三菱において強制労働に従事した大韓民国国民甲らが旧三菱が解散した後新たに設立された三菱を相手として国際法違反及び不法行為を理由とした損害賠償及び未払賃金の支払いを求めた事案において、日本法を適用した場合には、甲らは、旧三菱に対する債権を三菱に対して主張することができなくなるところ、旧三菱が三菱に変更される過程において、三菱が旧三菱の営業財産、役員、従業員を実質的に承継して、会社の人的・物的構成には基本的な変化がないのに、戦後処理及び賠償債務解決のための日本国内の特別な目的の下制定された技術的立法に過ぎない会社経理応急措置法及び企業再建整備法等の日本国内法を理由として旧三菱の大韓民国国民に対する債務が免脱される結果となることは、大韓民国の公序良俗に照らして容認することができないので、日本法の適用を排除して当時の大韓民国法律を適用してみれば、旧三菱が責任財産となる資産並びに営業及び人力を中日本重工業株式会社等に移転して同一の事業を継続したのみならず、三菱自らが旧三菱を三菱企業の歴史の一部分として認定している点等に照らして、旧三菱と三菱とは実質的に同一性をそのまま維持しているものとみなすことが妥当であり、法的には同一の会社と評価するのに十分であり、日本国の法律が定めたところに従い旧三菱が解散して中日本重工業株式会社等が設立された後、吸収合併の過程を経て三菱に変更される等の手続を経たというほかないので、甲らの旧三菱に対する請求権を三菱に対して行使することができるとした事例
- (i)「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」(以下「請求権協定」という。)は日本の植民支配賠償を請求するための協商ではなく、サンフランシスコ条約第4条に基づき日韓両国間の財政的・民事的債権・債務関係を政治的協議により解決するためのものであり、請求権協定第1条により日本政府が大韓民国政府に支払った経済協力資金は第2条による権利問題の解決と法的対価関係があるとみられない点、並びに(ii)請求権協定の協商過程において日本政府は植民支配の不法性を認定していないまま強制動員被害の法的賠償を根本的に否認しており、これに従い韓日両国政府は日帝の朝鮮半島支配の性格に関して合意に達することができなかったところ、このような状況において日本の国家権力が関与した反人道的不法行為及び植民地支配と直結した不法行為を原因とする損害賠償請求権が請求権協定の適用対象に包含されたと解することは困難な点等に照らしてみれば、請求権協定により個人請求権が消滅していなかったことは勿論であり、大韓民国の外交的保護権も放棄されていなかったとみなければならない。さらに、(i)国家が条約を締結して外交的保護権を放棄することにとどまらず、国家とは別個の法人格を有する国民個人の同意なく国民の個人請求権を直接的に消滅させることができると解することは、近代法の原理と相容れないことになる点、(ii)国家が条約を通じて国民の個人請求権を消滅させることが国際法上許容されることができるといえども、国家と国民個人とが別個の法的主体であることを考慮すれば、条約に明確な根拠がない限り条約締結により国家の外交的保護権以外に国民の個人請求権まで消滅したと解することができないところ、請求権協定には個人請求権の消滅に関する日韓両国政府の意思の合致があったと解するほど十分な根拠がない点、並びに(iii)日本が請求権協定直後、日本国内において大韓民国国民の日本国及びその国民に対する権利を消滅させる内容の「財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第二条の実施に伴う大韓民国等の財産権に対する措置に関する法律」を制定・施行した措置は、請求権協定のみにより大韓民国国民個人の請求権が消滅しないことを前提とする際に初めて理解されることができる点等を考慮してみれば、国民の個人請求権が請求権協定の適用対象に包含されるといえども、個人請求権自体は、請求権協定のみにより当然に消滅したと解することができず、ただ請求権協定によりその請求権に関する大韓民国の外交的保護権が放棄されることにより、日本の国内措置として、当該請求権が日本国内において消滅したとしても、大韓民国がこれを外交的に保護する手段を喪失したとなるのみである。
- 日帝強占期に国民徴用令により強制徴用されて日本国の会社である旧三菱において強制労働に従事した大韓民国国民甲らが旧三菱が解散した後新たに設立された三菱を相手として国際法違反及び不法行為を理由とした損害賠償及び未払賃金の支払いを求めた事案において、少なくとも甲らが大韓民国の裁判所に上記訴訟を提起する時点までは、甲らの大韓民国における客観的な権利を事実上行使することができない障害事由があったと解するべきであるので、旧三菱と実質的に同一の法的地位がある三菱が消滅時効の完成を主張して甲らに対する不法行為を原因とする損害賠償債務又は賃金支払債務の履行を拒絶することは顕著に不当であり、信義誠実の原則に反する権利濫用であって許容されることができないところも、これと異なる原審判決に法理誤解の違法があるとした事例
2009タ22549判決(抄訳)[損害賠償(その他)等] [判例公報2012下1084]
【参照条文】
[1] 国際私法第2条 [2] 国際私法第2条及び第32条第1項並びに民事訴訟法第5条 [3] 民事訴訟法第217条第3号 [4] 民事訴訟法第217条第3号並びに旧憲法(1962年12月26日憲法第6号に全部改正される前のもの)附則(1948年7月17日)第100条及び第101条 [5] 旧憲法(1962年12月26日憲法第6号に全部改正される前のもの)附則(1948年7月17日)第100条、法例(1898年6月21日法律第10号)第30条及び旧渉外私法(2001年4月7日法律第6465号国際私法により全部改正される前のもの)第5条(現行の国際私法第10条参照) [6] 財産及び請求権に関する問題の解決並びに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定第1条及び第2条 [7] 民法第2条及び第166条第1項
【参照判例】
[1]大法院2005年1月27日宣告 2005タ59788判決(判例公報2005上 294)
大法院2010年7月15日宣告 2010タ18355判決(判例公報2010下 1578)
弁護士法人 瓜生・糸賀法律事務所 韓国法令チーム