TOPその他更新情報 外国判例の日本語訳及びその解説コラムを追加致しました。(韓国:(刑事)良心的兵役拒否者が兵役法違反により有罪となるか否かに関する事件[大法院2018.11.1.宣告全員合議体判決])

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外国判例の日本語訳及びその解説コラムを追加致しました。(韓国:(刑事)良心的兵役拒否者が兵役法違反により有罪となるか否かに関する事件[大法院2018.11.1.宣告全員合議体判決])

【判示事項】

良心による兵役拒否、いわゆる良心的兵役拒否は、宗教的・倫理的・道徳的・哲学的又はこれに類似する動機から形成された良心上の決定を理由に、銃器を扱うこと又は軍事訓練を伴う兵役義務の履行を拒否する行為をいう。良心を放棄せずしては銃器を扱うこと又は軍事訓練を伴う兵役義務を履行することができず、兵役義務の履行が自身の人格的存在価値を自ら破滅させるため、兵役義務の履行を拒否するというものである。結局、良心を放棄することができず、自身の人格的存在価値を自ら破滅させることもできないため、不履行によるいかなる制裁をも甘受せざるをえないとする。

兵役法第88条第1項は、現役入営拒否行為について3年以下の懲役に処する旨定めている。実際の裁判においては、大半の良心的兵役拒否者の個別の事情を考慮しないまま、兵役法施行令第136条第1項第2号カ目で定める戦時勤労役の編入対象に該当する1年6か月以上の懲役刑の実刑を一律的に宣告している。父子又は兄弟がいずれも実刑宣告を受けて服役する状況も少なからず発生した。このような刑事処罰が続いているにもかかわらず、良心的兵役拒否者は、わが国において毎年平均約600人前後発生している。

憲法上、国家の安全保障及び国土防衛の神聖な義務、そして、国民に付与された国防の義務は、いくら強調してもしすぎることはない(大法院2004年7月15日宣告2004ド2965全員合議体判決等参照)。国家の存立がなければ基本権保障の土台が崩れるためである。国防の義務が具体化された兵役義務は誠実に履行しなければならず、兵務行政も公正かつ厳正に執行しなければならない。憲法が良心の自由を保障しているからといって、上記のような価値をおろそかにしてはならない。

したがって、良心的兵役拒否を許容するか否かは、憲法第19条の良心の自由など基本権規範と憲法第39条の国防の義務規範との衝突・調整の問題となる。

国防の義務は法律が定めるところに従って負う(憲法第39条第1項)。すなわち、国防の義務の具体的な履行方法及び内容は、法律で定めるべき事項である。それに従い兵役法で兵役義務を具体的に定めており、兵役法第88条第1項で入営義務の不履行について処罰しつつも、一方では、「正当な事由」という文言を置いて、立法者が予め具体的に列挙することが困難な衝突状況を解決できるようにしている。したがって、良心的兵役拒否に関する規範の衝突・調整の問題は、兵役法第88条第1項で定める「正当な事由」という文言の解釈によって解決しなければならない。これは、衝突が起きる直接的な局面から問題を解決する方法であるだけでなく、前述のとおり、兵役法が取っている立場にも合致する解釈方法である。

前述のとおり、消極的不作為による良心実現の自由に対する制限は、良心の自由に対する過度の制限又は本質的内容に対する脅威になりうる。良心的兵役拒否は、このような消極的不作為による良心実現に該当する。良心的兵役拒否者は、憲法上の国防の義務自体は否定していない。専ら国防の義務を具体化する法律で兵役義務を定め、その兵役義務を履行する方法として定めた銃器を扱うこと又は軍事訓練を伴う行為をすることができないという理由で、その履行を拒否しているに過ぎない。

憲法は、基本権保障の体系であって、基本権が最大限実現されるよう解釈・運用されなければならない。憲法第10条は、全ての国民は人間としての尊厳と価値を有し、国家は個人が有する不可侵の基本的人権を確認し、これを保障する義務を負うと宣言している。良心の自由は、道徳的・精神的・知的な存在であって、人間の尊厳性を維持するための必須条件である。

前述の良心的兵役拒否の現況とともに、わが国の経済力及び国防力、国民の高い安保意識等に照らし、良心的兵役拒否を許容するからといって国家安全保障及び国土防衛を達成する上で大きな支障があるものとは見受けられない。したがって、真正な良心的兵役拒否者に銃器を扱うこと及び軍事訓練を伴う兵役義務の履行を強制し、その不履行を処罰することは、良心の自由に対する過度の制限又は本質的内容に対する脅威となる。

自由民主主義は多数決の原則に基づき運営されるが、少数者に対する寛容と包容を前提とするときにのみ正当性を確保することができる。国民多数の同意を得られなかったことを理由に刑事処罰を甘受しながらも、自身の人格的存在価値を守るためにやむをえず兵役を拒否する良心的兵役拒否者の存在について国家がいつまでも目を背けることはできない。一方的な刑事処罰のみで規範の衝突問題を解決できないという点は、既に長い年月をかけて確認された。その信念に容易に同意できないとしても、今後は、彼らを寛容し、包容することができなければならない。

要するに、自身の内面に形成された良心を理由に銃器を扱うこと及び軍事訓練を伴う兵役義務を履行しない者に、刑事処罰等の制裁を科してはならない。良心的兵役拒否者に兵役義務の履行を一律的に強制し、その不履行に対し刑事処罰等の制裁を科すことは、良心の自由をはじめとする憲法上の基本権保障体系及び法秩序全体に照らし妥当でないのみならず、少数者に対する寛容と包容という自由民主主義精神にも違背する。したがって、真正な良心による兵役拒否であるならば、これは、兵役法第88条第1項の「正当な事由」に該当する。

他方、良心的兵役拒否が兵役法第88条第1項で定める「正当な事由」に該当しないと判断した大法院2004年7月15日宣告2004ド2965全員合議体判決、大法院2007年12月27日宣告2007ド7941判決等をはじめ、このような趣旨の判決は、この判決の見解に背馳する範囲においてこれを全て変更するものとする。

エホバの証人の信者である被告人が宗教的良心を理由に入営せず、兵役を拒否した事案において、良心的兵役拒否者に兵役義務の履行を一律的に強制し、その不履行に対し刑事処罰等の制裁を科すことは、良心の自由をはじめとする憲法上の基本権保障体系及び法秩序全体に照らし妥当でないのみならず、少数者に対する寛容と包容という自由民主主義の精神にも違背するため、真正な良心による兵役拒否であるならば、これは、兵役法第88条第1項の「正当な事由」に該当するという理由で、これに反して有罪と判断した原審判決を破棄した事例

このような多数意見について、国家の安全保障に憂慮がない状況を前提に、真正な宗教的信念に従い兵役を拒否する場合には正当な事由があるとする趣旨の大法院イ・ドンウォン裁判官の個別意見、兵役法の立法趣旨及び目的、体系、兵役義務の遂行能力に係る規定の性格に照らし、兵役法第88条第1項の正当な事由は、当事者の疾病又は災難の発生など一般的かつ客観的な事情に限定され、良心的兵役拒否のような主観的事情は認められないとする趣旨の大法院キム・ソヨン裁判官、チョ・ヒデ裁判官、パク・サンオク裁判官、イ・ギテク裁判官の反対意見があり、多数意見に対する大法院クォン・スンイル裁判官、キム・ジェヒョン裁判官、チョ・ジェヨン裁判官、ミン・ユスク裁判官の第1補充意見、大法院パク・ジョンファ裁判官、キム・ソンス裁判官、ノ・ジョンヒ裁判官の第2補充意見、反対意見に対する大法院キム・ソヨン裁判官、イ・ギテク裁判官の第1補充意見、大法院チョ・ヒデ裁判官、パク・サンオク裁判官の第2補充意見がある。

2016ド10912兵役法違反(カ)破棄差戻し[良心的兵役拒否と兵役法第88条第1項の正当な事由] [大法院2018.11.1.宣告全員合議体判決要旨]

この判例の解説コラムについては、こちらからご覧ください。

何らかの宗教を信仰している人口が43.9%(注1)を占める韓国ではあるが、これまで宗教など自身がもつ良心により法律上の兵役義務を拒否することは正当な事由とみなされず、刑事処罰の対象とされてきた。2018年7月現在、韓国内で良心的兵役拒否により処罰を受けた人は約1万9,700人に達する。2000年代に入りこの問題が議論されるようになったものの、2004年と2011年の兵役法を巡る憲法訴願(法律の憲法違反の有無に対する審査請求)に対する審判において、憲法裁判所は、代替服務制を設けることなく良心的兵役拒否者を処罰する規定を有する兵役法について「合憲」の決定を下した。
2018年6月に行われた裁判では、兵役拒否を処罰する旨を規定する兵役法第88条第1項については「合憲」としたものの、兵役の種類として代替服務制を規定していない兵役法第5条第1項については「憲法不合致」の決定を下した(2018年8月28日掲載の憲法裁判所判例を参照)。憲法裁判所は、当該条項を2019年12月31日までに改正するように命じ、万一、改正されない場合には2020年1月1日以降、当該条項は効力を失うものと判示した。
これに対し、今回の裁判は、ある良心的兵役拒否者が兵役法違反により有罪となるか否かが争われた刑事裁判である。ここでは、憲法第19条(『すべての国民は、良心の自由を有する』)の「基本権」と、第39条第1項(『すべての国民は、法律が定めるところにより国防の義務を負う』)の「国防の義務」との衝突が争点となった。結局、良心的兵役拒否は憲法が保障する良心の自由の実現であり、正当な行為として刑事処罰をしてはならないとの判決が下された。
上記の相次ぐ司法判断に対し、先の6月の裁判で命ぜられた代替服務制の導入について、国防部は、良心的兵役拒否者の代替服務期間として36か月を提案している。これは、軍法務官や医官など別の代替服務者の服務期間である34~36か月との衡平性を考慮した期間であるとされる。一方、国家人権委員会は27か月を提案している。これは、現在の陸軍基準の服務期間である18か月(2020年に現行21か月から短縮される予定)の1.5倍にあたる期間であるが、過度の期間を設定することで代替服務が懲罰的性格を帯びてはならないと主張されている。
今回の判決に対し、特定の宗教に特恵を与えているのではないか、兵役忌避者が増えるのではないかなど懸念の声もある一方で、判決以降、同様の裁判の下級審においても無罪判決が下されるなどしている。さらに、除隊後に受ける予備軍訓練(除隊後8年間、年次に応じて年間所定の日数訓練を受けなければならない)拒否者についても下級審で無罪判決が出されるなどしており、代替措置の検討が進められている。

(注1)韓国統計庁2015人口住宅総調査の標本集計結果(人口、世帯、住宅基本特性項目)p.18